右だ、左だ、とレッテルを貼り、批判するのは簡単だ。
そして対談しても、初めから相手の話を聞く気もない。相手にものも言わせない。それで、「勝った!」と思う。最低だ。
でも昔は、私だってそんなことをやっていた。何度かやっていた。
又、誰も見てないところでは、「口論」ではなく、「肉弾戦」で潰していた。いきなり、殴っている。
「仲間」内でも、そんな内ゲバをした。帰り道で待ち伏せし、いきなり、殴る。いきなり蹴飛ばす。そして「勝った!」と思う。どうも最低だ。
その点、中島岳志さんは偉い。9月3日号の「週刊アエラ」を読んで思った。「現代の肖像」に出ていた。
私も、そのライターには会って話を聞かれた。「いやー、偉い人ですね」と言った。
それにしても、もう、とっくに出てる人かと思ったのに、まだ、「肖像」には出てなかったんですね。という話からした。
中島さんは、よく対談してるし、私も随分と教えられた。たとえば、安田財閥の安田善次郎を刺殺したテロリストの朝日平吾についてだ。
この人は、かなり短気な人で、映画の「日本暗殺秘録」にも出ているが、安田と会っている時に、いきなり安田を短刀で殺したのだ。うわー、凄い人だと思った。
だって彼は、すぐ後に自分も自決する。責任を取って自決したのだ。
さらに「死ノ叫声」という名文の、後輩に宛てた文を残している。堂々とした名文だ。
その中に、こんな文がある。皆も私と同じように、テロをやってくれと言っているのだが…。
〈更に世の青年志士に檄す。卿等は!大正維新を実行すべき天命を有せり。而して之を為すには先ず第一に奸富を葬る事。第二に既成政党を粉砕する事。第三に顕官貴族を葬る事。第四に普通選挙を実現する事。
第五に世襲華族世襲財産制を撤廃する事。第六に土地を国有となし小作農を救済する事。第七に十万円以上の富を有する者は一切没収する事。第八に大会社を国営となす事。第九に一年兵役となす事——等より染手すべし。最も最急の方法は奸富征伐にしてそは決死を以て暗殺する外に途なし〉
そして、どうやってこれを実現するかだが、こう言う。
〈最後に予の盟友に遺す! 卿等予が平素の主義を体し語らず騒がず。表さず。
黙々の裡に只刺せ。只衝け。只斬れ。只放て!然して同志の間往来の要なく結束の要なし。一名にて一命を葬れば足る即ち自己一名の手段と方法とを尽せよ。然らば即ち革命の気運は熟し随所に烽火揚がり同志は立所に雲集せむ。夢々利を取るな名を好むな。只死ね只眠れ必ず賢を採るな。大愚を採り大痴を習え。吾れ卿等の信頼すべきを知るが故に檄を飛ばさず死別を告げず黙々として予の天分に往くのみ。
嗟呼!夫れ何等の光栄ぞや何等の喜悦ぞや〉
これが「死ノ叫声」のラストだ。凄い名文だ。全ての右翼テロリストの文章の中でも最高だろう。
だから、私も暗記した。特に、「只刺せ。只衝け。只斬れ。只放て」には感動した。私もいつか、テロをやることがあれば、こんな名文を遺したいと思った。又、これは右翼だけでなく、左翼のテロリスト(たとえば、反日武装戦線〈狼〉の人たち)にも影響を与えたと思う。彼らは絶対に認めないだろうが。
しかし、この文は、朝日平吾のものではないとずっと思われてきた。行動と思想は文章と違うと思った。この文の中には、北一輝の思想が出ている。
だから、朝日に書けるはずがない。きっと北に書いてもらったのだろうと、警察は思った。
ところが、朝日の文章を中島さんは徹底的に調べた。日記やメモなどを含めて。この時、中島さんは、「これは朝日の文章だ」と断言した。
これには驚いた。きっと北一輝が代筆したものだと思っていたからだ。
それ以来、中島さんの文にはずっと関心を持ち、学んできた。対談もしたし、一緒に本も出した。そして「心の広さ」を感じた。心の広い人だし、実務的な人だと思った。これには驚いた。「アエラ」では、そんなことを話したように思う。「アエラ」にこの文を書いたのは、高瀬毅さんだ。
これは貴重な長時間の取材で、他の仕事をやってたら出来ない。かなり集中してやらなくてはならない。
だから、これは皆さんに読んでほしいと思う。
この欄の表紙に中島さんの著書が紹介されている。『朝日平吾の鬱屈』(これが、私の言った本だ)。『「リベラル保守」宣言』『血盟団事件』『アジア主義』『保守と立憲』『超国家主義』『保守と大東亜戦争』『愛国と信仰の構造』…などだ。
読んでない本もあるので、全て読んで、話を聞いて勉強したいと思っている。
日本の「保守派」という点では、だだちゃ豆の会にも触れておきたい。
加藤紘一さんはとてもリベラルな人だ。右翼に襲われ、家を焼かれた。「家を焼くなんてひどい」と私が言ったら、それが山形の新聞に載り、加藤さんは喜んでくれた。「鈴木さんは国士だ」と言ってくれた。
その襲撃を批判する集会に呼ばれて、「家に火をつけるなんて許せない」と言った。私だってかつてアパートに火をつけられたことがある。だから、これは批判するのは当然だ。
ただ、右翼の人たちは、この日は「国賊加藤に天誅支持集会」を開いていた。それに反対した鈴木は許せないと、右翼の怒りを買った。私は国賊扱いだ。売国奴だ。応援で行った私でも「反日」だから、当の加藤さんは大変だったようだ。
加藤さんはそのあと、「だだちゃ豆パーティ」をやっていた。紘一さんが亡くなった後で、娘さんの鮎子さんがやっている。
だだちゃ豆とは枝豆だ。いや、枝豆の一種だ。東北地方ではどこでも穫れるが、いろんな名前、いろんな種類がある。山形では、ただちゃ豆が有名だ。
そのおいしい豆を東京の人たちにも食べてもらいたいと、加藤さんが毎年やっているのだ。
机の上に、山のようなだだちゃ豆が置かれている。でも、その他は質素だ。漬物、味噌汁…だ。これではパーティにならないが、やってるのだ。
私は枝豆は大好きだから、毎年、これが楽しみで、心待ちにしている。集中したら、2000粒は食べられると思うが、皆と競争だから、集中して食べられない。今年は210粒しか食べられなかった。
そして、豆を食べていると、「鈴木さん」と声をかけられた。あっ!元の防衛大臣だ。中谷元さんだ。体が大きいのですぐ分かる。いつもこの会には来ている。
不思議だったが、中谷さんはかなりタカ派だと思った。でもハト派の加藤紘一さんとは仲がいい。前に3人で食事した。加藤、中谷さんと私だ。2人はかなり考えが違うはずなのに、仲がいい。不思議だ。でも、話は出来る。これはすごいと思った。
中谷さんとは「朝生」で一緒に出たことがある。どんな人が食ってかかっても、泰然としている。カーッとなることはない。相手の話を黙って聞いて、そこから、ゆっくりと反論する。全てを受け止めてからやるのだ。軍人だったからか。いや、軍人じゃないな、防衛大臣をやったが、軍人ではない。心が広いのだろう。
中島さんのように、リベラルな精神と覚悟を持っているのだと思った。
①「週刊アエラ」(9月3日号)の「現代の肖像」には驚きました。中島岳志さん(東京工業大学教授)が載ってました。有名な人だから、とっくに載っていたと思ってたんですが、「えっ、今頃?」と思いました。でも今はその「旬」ですね。〈保守の真髄とは何か〉をしっかりと発表し、行動しています。狭さで凝り固まった「保守」が多い中で、中島さんは本物だと思います。「保守こそリベラルであるべき」と、「週刊金曜日」などの左翼の週刊誌でも書いています。