連休最後の日、5月6日(日)の夜に、すごい舞台を観ました。
舞踏です。それも、「日本国憲法を踊る」というものです。演ずるのは、世界的ダンサーの笠井叡さんです。場所は国分寺の「天使館」でした。
「すごい踊りだ」という予感はあったのです。前から笠井さんの踊りは自分の眼で観てみたいと思ってました。
でもこの感動を自分だけで観ては勿体ないと思いました。それで「劇団再生」の高木尋士さんを思い浮かべました。
肉体を使って表現する人間として高木さんは笠井さんのことをよく知っていました。「日本を代表するダンサーですよ」と言います。分からなかったら彼に解説してもらおうと思いました。
私と笠井さんの出会いも不思議な縁からです。私の書いた天皇論を読んでくれ、「ぜひ会いたい」と言われ、中野のルノアールで会いました。笠井さんの本を出している出版社の社長も一緒でした。
「文学」と「表現」についていろいろと考えさせられました。笠井さんは〈活字〉ではなく肉体を通して理解させる世界があると理解してるからです。
それは私も、少し分かります。我々は、活字になったものを読み、そこから全てを理解しようとする。
しかし、それでは、物事の本当の姿を理解出来ないのかもしれない。肉体を通し、「体感」するものがない。
又、文字が発明され、文字として残されると、それで「安心」して、物事の真の姿、原初の姿が忘れられる危険性もある。それは記憶についても書いてる。
文字がない時は全て頭で、体で覚えた。例えば、平家物語を語った人たちだ。文字はない。体で覚え、それを伝えた。
だから、体で覚えたものが伝えられた。今は文字があって書かれているから、それだけを手がかりにしている。
だから、私たちは知らない。文字が発明される前、人々は、どうやって歴史を伝えてきたのかを。笠井さんはそれをやっている。初めて会った時、それを感じた。
今度、古事記に挑戦し、日本の原初の姿を書いてみたい、と言う。その本の推薦文を書いてくれと言われて書いた。
私の文は未熟だ。でも笠井さんは喜んでくれた。そして、その古事記について書いた本を送ってくれた。
驚いた。こんな立派な本があるのかと思った。ものすごく厚い。函に入っている。価格は2万円以上だった。超高級品だ。大作家が出す「豪華本」だ。
それに内容が難しい。「よし、まず高木さんに読んでもらい、解説してもらおう」と思った。
彼は私と違い、すごい読書家だ。私は1年に500冊位しか読んでないが、高木さんは1年に千冊は読む。「読書代行」の仕事もしている。
それに、「踊り」と「芝居」という共通のジャンルを持っている。世の中のことを肉体を通して体現し、それを肉体を使って表現する。それを古代に戻って、古事記に挑戦してるのだ。
高木氏は快諾してくれた。そして、読んでくれた。理解して、説明してくれた。
だから、この笠井さんの踊りも高木さんに見てもらい、笠井さんに紹介しようと思ったのだ。
笠井さんから場所と時間を教えられたが、よく分からない。でも、地図を見て、多分、この辺りだろうと思い、国分寺からタクシーに乗った。
あれ、笠井さんの自宅のそばだ。そうしたら小さく「天使館」と書かれた場所があった。
あっ、では、笠井さんの自宅の庭に建てていたのか。初めは「稽古場」だったのだろう。それを小さな劇場にしたのだろう。「内田樹さんのようだな」と思わず、つぶやいた。
内田さんは哲学者で合気道をやる格闘家だ。自宅の庭に合気道道場を作った。そこで合気道を教えている。私もそこで稽古をつけてもらったことがある。
自分が一人で学び、それだけでは満足せずに、他人に教えるために新しい場を作るのだ。
笠井さんは「天使館」と命名していた。
別に商業ベースの劇場ではないので地図には載ってない。ネットにも出てない。我々が執念で探したのだ。
入ったら、畳の大きな部屋だった。半分を舞台にして区切り、あとの半分は見物席だ。50人も入ると満員だ。
でもその50人の人は本当に幸せだと思った。こんなに素晴らしい踊りを見られたんだし…。私らもそうなのだが。
午後5時半、始まる。驚いた。こんな踊りがあるのか。全く新しい体験だった。
「日本国憲法を踊る」としてるから、今の憲法がいかに素晴らしいか。を表現したものだと思っていた。
ところが、フランス革命から始まる。自由、平等、博愛のフランス革命だ。この理念を継ぐものとして日本では憲法が作られた。
まず、大日本帝国憲法(明治憲法)の話からやる。それだけで長いし、「明治憲法を踊る」で終わるかと思ったら、戦争があり、終戦だ。日本は叩きのめされ、そこから立ち上がり、新しい憲法を作る。
踊りは笠井さんが中心だが、お弟子さんたち4人も踊る。そして朗読の女性もいる。皆、素晴らしい。
又、笠井さんは踊りながら、セリフも言う。セリフ付きの踊りも初めてだ。その踊りがすごい。肉体の表現の限界に挑戦している。
その肉体は、まさに〈日本〉であり、〈憲法〉である。又、〈天皇〉でもある。この憲法がいかに苦難の中から生まれてきたか。それを表現する。
そして、どれだけ理想と希望をもって生まれ、育ち、闘ってきたかを表現する。
飛び上がり、走り、倒れ…。全身を使って表現する。笠井さんはまず〈憲法〉になって、憲法の苦しみ、闘い、愛を表現する。こんな踊りはなかなか、ない。皆、息を殺して見入っていた。
2時間の感動的な舞台だった。まるで憲法の誕生の瞬間に立ち会ったような感動を覚えた。終わって、笠井さんにその感動を伝えた。
終わってから、皆で話し合う会にしたいと言う。舞台を片付け、机が運ばれ、ビールが運ばれて小宴会になる。スタッフ、お客さんも一緒になって、飲み、語る。
富岡幸一郎さんも来ていた。「素晴らしいですね」と言い合った。
高木氏も感動していた。「笠井さんの本を全部読みました」といった。本には200ヶ位付箋が付けてある。すごい読書家だ。それを見て、少しばかり私は解説してもらっている。
笠井さんの奥さんも出席していた。お弟子さんたちとも、色々と話をした。私も皆の前で話をした。
高木さんを紹介した。「私はまだまだ初心者ですが、これから笠井さんのことを必死で勉強したいと思います」と言った。
ともかく、すごい人に会った。この連休では、初めに、池上さんに会った。4月29日だ。そして、連休最後に笠井さんに会った。
こんなすごい人に会ってる人も珍しいだろう。幸せだと思った。
又、少しずつ理解出来たら、そのところだけでも紹介してみたいと思う。
⑭前にこのブログで紹介しましたが、映画「まぶいぐみ ニューカレドニア引き裂かれた移民史」は素晴らしい映画でした。沖縄から大量に移民として行ってます。その人々の苦労、望郷がよく出てました。私は試写会を観たのですが、5月19日から東中野のポレポレ東中野で上映です。私は家が近いので、又、もう一度、観に行ってみるつもりです。
⑮6月16日(水)。午後5時より、三島由紀夫の映画とそれについてのトークがあります。主催するのは三島研究家の瀧沢亜希子さんです。会場は西神田の「学び舎」です。tel 03(3239)1906。私も観たことのない三島の珍しい映画が上映されます。「不道徳教育講座」です。私もとても楽しみです。
1959年日活で、西河克己監督、音楽は黛敏郎です。上映後、椎根和さん(編集者)と私の対談があります。それも楽しみです。司会は瀧沢亜希子さんです。映画は17時から18時30分。文学対談は18時30分から20時10分の予定です。料金は1千円です。
⑯「日刊ゲンダイ」(5月11日号)に大きく出てました。私のインタビューです。「注目の人に直撃」。〈「私は愛国者」「国のため」と声高に言う人は偽物だと思います〉と断言してます。〈本当に自信があれば謙虚になれるはず〉と。
そして、「自由のない自主憲法より自由のある押し付け憲法」。「歴史を学ばず反省がないから戦前に戻ろうとする」と言ってます。かなり勇気のある発言ですね。「日刊ゲンダイ」はすごいですね。こんな発言を大々的に取り上げて紹介しています。