2017年1月15日(日)於・高田馬場
参加者:鈴木邦男・高木尋士・椎野礼仁・寅次郎・金井真紀・高木あさこ
今年も平成の読書王高木さんと読書対談をしました。ぼくは昭和の読書王だと思っていますが、昭和・平成と時代は変わっても、読書の本質は変わらないんだなぁ、と毎年の対談を通じて感じます。先日の夜中に高木さんと電話で話しました。
「たくさん読んだから偉いってことでもないけど、たくさん読まないとわからないこともある。全集を読んだから凄いってことでもないけど、全集を読破した人だけがわかることもある」と。
100のインプットがようやく1つのアウトプットになるんです。そんなわけで今年も高木さんと話しました。高木さんが主宰している『劇的読書会』のメンバーも参加してくれました。
では、始めましょう。
高木:あけましておめでとうございます。例年恒例の読書対談です。
鈴木:あけましておめでとうございます。恒例になりましたね。こうして毎年対談をすることは読書のいい刺激になります。
高木:まずは、鈴木さん。昨年の結果発表からです。
鈴木:僕のノルマは、月に30冊。年間360冊でした。全体を足して12で割れば34冊ですから、月30冊というノルマはクリアしてますけど、11月は30冊を突破出来なかったんですよ。痛恨の極みですね。・・・残念ですね、11月は。
高木:11月は何があったんですか? それが問題です。
鈴木:11月は三島マンスなんです。忙しかったんじゃないですか。
高木:全部では何冊だったんですか?
鈴木:417冊ですね。すみません。
高木:どんな本を読みましたか?
鈴木:軽い本が多かったですね。
高木:軽い本というと?
鈴木:新書です。良くないなぁ、ノルマの数合わせのために、って。高木さんは? もっと多いでしょ。
高木:僕は、一日一冊以上、年間400冊がノルマでした。結果は、515冊でした。
鈴木:515冊!
高木:平均すると月に43冊。達成率128%です。よく読んだと思います。自分で自分を褒めてあげます。
鈴木:難しい本を読んでるんでしょ。
高木:そうでもないんですよ。ぼくも新書が多かったです。あとは、太宰治、安倍公房、江戸川乱歩、吉村昭という大好きな作家の小説を読み直しました。
鈴木:吉村昭は大変でしょう。
高木:小説なのでそうでもないですよ。ぼくは、推理小説が好きなのでたくさん読みました。あとはいわゆるラノベもたくさん読みました。
鈴木:ラノベ?
高木:ライトノベルです。
鈴木:へー。ラノベって言うんだ。
高木:ほかに、『日本文壇史』(伊藤整/講談社学芸文庫・全24巻)を全部読みました。
鈴木:伊藤整ですね。
高木:全集とこれを読めば明治以降がだいたい全部わかります。そして、『人類の知的遺産』(講談社・全80巻)が終わりました。去年で40巻から80巻まで一気に読みました。ルソー、ドストエフスキー、バクーニン、トロツキー、ハイデガー、毛沢東、サルトル・・・。
鈴木:80巻あったっけ!すごいね。そんなに読んでる人いないよ。
高木:いないと思います、ほんとに(笑)
鈴木:『人類の知的遺産』って、まとめて売ってるの?
高木:売ってますよ。全80巻で4万円くらいからあると思います。『世界の名著』(中央公論社・全81巻)もそのくらいの金額で買えると思いますよ。
鈴木:安いねぇ。
高木: 年間500冊突破は、挑戦だったんです。普通の仕事だと、無理ですよ。はっきり言って無理です!
鈴木:そうだよねぇ。
高木:昨年の手帳を転記してきましたが、最初から読書の時間を1日4時間以上予定して「仕事」にしたんです。そして、月に2日の読書の日を必ず取るようにしました。Facebook、Twitterなど、SNSは一切やめて、テレビも電話も消して、ここまでやってようやく500冊です。
鈴木:本の要約を紹介する仕事もしてるんでしょ。
高木:読書代行ですね。その仕事の本も含めて500冊突破です。
鈴木:それで読む冊数が増えてるってことはある?
高木:それは特に関係ないと思います。
椎野:売り上げはどのくらいなんですか?
高木:去年一年間で200万円は超えてます。一冊の単価が15,000円~35,000円くらい。要約したり、レポートを書いたり。
鈴木:ベッドのそばで本を読んでやる、とかそういうのはやらないの?
高木:それは、『朗読者』(ベルンハルト・シュリンク/新潮文庫)じゃないですか(笑)
鈴木:あれは違うの?
高木:いい小説ですけど(笑)・・・確かに僕は代行者ですから、朗読も仕事があればやります。
鈴木:お互い、ノルマはクリアしましたね。高木あさこさんもノルマを決めてなかった?
高木あさこ:去年は決めてませんでした。だからあんまり考えないで読んでました。ちゃんと数えてないけど、30冊くらいでしょうか。
高木:月に3冊ですね。金井さんは何冊読みましたか?
金井:ちゃんと数えてませんでしたが、月に10冊くらいです。
鈴木:年間120冊。えらいねぇ。寅次郎さんは?
椎野:寅次郎さんは、自分の住むアパートに本が溢れてしまって、本を置くための部屋を2室借りてるんですよね。
寅次郎:それでも実際読めているのは12冊くらいです。
鈴木:えっ! なんで?! 月に1冊しか読めてないの? 小学生以下じゃないか!
寅次郎:買った本は200冊くらいあるんですけど、読めてないですね。一冊全部通して読んでないんですよ。目次だけを読んだり、部分的に読んだり。
鈴木:堪え性がないんじゃないの? 部屋が汚いから(笑)
高木:途中で読むのを止める人は意外と多いですね。
鈴木:編集者も必要な部分だけを読んだりしますね。
金井:お二人はないですか。途中で読むのを止めちゃった本は。
高木:僕は一冊もないですね。
鈴木:僕もないですね。しょうがないから最後まで読みます。
寅次郎:読んでる途中で不要だと思ったら、そこでスッパリと止める勇気も必要だ、その時点で自分にとって不要な本なんだ、と言う人もいます。
鈴木:それは勇気じゃないですよ。
高木:ただの諦めですね。未知の世界を知らないだけ。もしかしたら後半にすごい一行があるかもしれない。
鈴木:最後まで読んでも結局くだらなかったという本もありますけどね(笑)
高木:それはいっぱいある(笑) それでも途中で読むのを止めた本はないです。
金井:たくさん読んでらっしゃるから、ハズレを引く確率も減ってるんでしょうか。
鈴木:いや! そんなことない!
高木:完全にハズレっていうのはほとんどないです。昨年はビジネス書を多く読みましたが、ほとんどみんな同じことを言ってる。マーケティングやマネジメント、ポジショニングっていう考え方はアメリカからきたもので、それをいろんな日本人がそれぞれの書き方で書いている。結局同じなんですが、でもそれぞに捉え方や実践の方法が違い、その点だけでも読む価値があると思います。
金井:すごい悪文だったらイライラしませんか?
高木:悪文も作家の個性です。その文章が悪い、と決められる人なんてこの世にいないですよ。もちとん、ぼくの基準で下手だなぁ、と思う文章はありますが、それでも編集者なり、出版社なりが稟議を通して出された本ですから、どこかに何かあるんだろうなぁと思います。
金井:上手い下手だけでなく、好きとか嫌いはありますよね。
高木:生理的に嫌いな文章というのもありますが、でもそれは普通の仕事でも合わない人と付き合わなきゃいけなかったりするのと同じことですからね。
椎野:淀川長治さんが「私はつまらない映画に出会ったことがない」って言ってましたね。ストーリーがつまらなくても、そこに映っている食器だとか、その国の食卓の雰囲気とか、とにかくすべてが楽しめる、と。
高木:そこまで言えたらいいですね。まだつまらない本に出合う凡人です(笑)
椎野:でもつまらない本でも、こんな単語があったか、こんな言い回しがあったか、っていう発見をすることはありますよね。
金井:だいぶ前に、みんなの挫折本アンケートっていうのを取ったことがあるのですが、すごく色々出てきたんです。それぞれの挫折本の裏の話も出てきて面白かったです。
高木:挫折本って、どんなのがありました?
金井:三大挫折本っていうのがあったんですよ。『夜明け前』(島崎藤村)と『暗夜行路』(志賀直哉)と、あと一つはちょっと思い出せないですが。
鈴木:面白いね! それ本にしたらいいよ。
高木:椎野さんは何冊読みましたか?
椎野:僕のノルマは60冊でした。一昨年は48冊だったので、月にもう一冊読めれば達成出来ると思ったんですよ。それに、年末になっても足りなかったら歌集をたくさん読めばいいと。ですが、昨年は35冊でした。
高木:月3冊ですね。目標は、60冊。読めなかったのなら、それは検証が必要ですよ。
椎野:生活全体の充実度に比例する、という感じがありました。昨年は、仕事に気が向かないで、やらなきゃいけない事もずいぶん先送りにしていたんです。でも今年に入ってからは仕事も進めて、気が楽になったと同時に読書も進んでます。
高木:今、1月の半ばですが、どうですか?
椎野:読書をした時間を手帳に記録してみました。30分単位でマルをつけたんですよ。1時間ならマルふたつ、というように。そうすると、マルがつかないのがイヤになるんです。今年に入ってから、殆どマルがつくようになりました。それに、55分読んだら、あと5分読んでマルをふたつにしよう、とか思うんですよ。この方法で今年はいける、と思います。
高木:では今年こそ60冊ですね!
椎野:今月に入ってもう3冊読んでいるので、すでに去年の平均冊数を超えてます。60冊は余裕でクリア出来ると思います! 今年は私生活も読書も充実させます。
鈴木:でも生活が充実してない方が本は読めるよ。友達がいっぱいいたら本は読めないよ。
高木:僕は、友達がいない方が本は読めます。昨年、実験したんですよ。付き合いを断る。イベントに行ったり、友達と飲みに行く、そういう時間を読書に充てたのたので、昨年は殆ど人と会ってないです。
金井:本を読むので、って言って断るんですか?「私と本とどっちが大事なの!」って言われそうですね。(笑)
高木:本を読むので、とは言わないですが、もし「私と本とどっちが~」って言われたら「本!」って答えるでしょ!(笑)
鈴木:僕が「高木くん! 俺と本とどっちが大事なんだ!」って言ったら?
高木:やっぱり「本!」って言います(笑) でも鈴木さんは、それを喜んでくれますよね。
椎野:家に帰ると、ついテレビをつけちゃって、それだけだとバカみたいだと思って同時に数独(数字のパズル)をやるんです。同時に両方やってる、ってことで自分に言い訳しちゃう。数独も面白くて好きなことは確かですが。テレビ見ながら新聞を読んでたこともありますが、両方身に入らない。数独だと、テレビのニュースでも頭に入る。使ってる脳の部分が違うんでしょうか?
高木:マルチタスクっていう仕事論ですね。ぼくも、何かをやりながらこれもやる、という同時進行が、仕事が出来る方法だと思って、これまでずっとやってきました。でも、それだと効率が悪いのではないかと思って、昨年から全てシングルタスクにしてみたんです。本を読むときには本しか読まない。食事の時はテレビも見ないで食事だけ。音楽を聴きながら仕事、ということもしないで、音楽を聴くときは他に何もしないで音楽だけを聴く。それが効率がいいかどうかはわからないですが、本に対しては結果が出ました。
椎野:僕も今年からは、本を読むために深夜放送のテレビを見るのを止めました。それで読んだ本の冊数は増えてます。
高木:テレビを見ながら本を読む人もいますね。
鈴木:はい。くだらない本とかは読みながらテレビを見ます。
椎野:そんなことが出来るんですか!
鈴木:テレビは3倍速で見たりとか。
高木:マルチタスク人間ですね。(笑)
高木:この間、銀行で見つけたんです。「大山文庫通信」といって、図書館と提携してるんですよ。
鈴木:大山文庫って何? 大山さん?
高木:みずほ銀行大山支店です。そこで、利用者が持ち寄った本を貸し出してるんですよ。そこにいいことが書いてあったので写真を撮らせてもらいました。「通勤電車の中ではスマホをやめて本を読む」。
鈴木:いいですね。賛成賛成!
高木:「一日30分はどこか場所を決めて本を読む」。
鈴木:本を読む場所って必要ですね。喫茶店とかに行って、400円の文庫本を読むためにそれ以上のお金をかけてるけど、そういうのは必要じゃないかな。本は自分の部屋で読むのは難しいでしょ。ついついテレビを見たり、眠くなったり。あと宅急便がきたり、イエスの箱舟が来たり。(笑) 気になっちゃう。
高木:あれをやろう、これをやっとこう、とかそれだけでストレスになりますね。鈴木さんはやっぱり喫茶店ですか。
鈴木:喫茶店が多いですね。本を読むために行くから、メシがウマい、マズいというよりも静かに本が読めるかどうかです。一番いいのは飛行機とか汽車ですね。逃げられないし、他にすることがないから。山手線を5周するとか、本を読むために新幹線で博多まで行くとか(笑)
高木:前の項目にもありますね。通勤電車の中で本を読む。わざわざこう書いてあるくらい、今はみんなスマホなんですよね。僕は、電車に乗るときに、車両の中に何人いて、そのうち何人がスマホを見てるかを統計とってみたんですよ。
鈴木:半分以上いるでしょ。
高木:9割近いです。あとの1割の人が、目を閉じていたり、本を読んでいたり、広告を見ていたり。本を読んでいる人は1割に満たないです。
椎野:僕も帰りの電車ではつい見ちゃいますね。
高木:あと、面白いのが「待ち合わせをするときは本屋の前と決め、少し前に行って店内を散策する」。
椎野:なるほど、実践的ですね。
高木:本屋って、待ち合わせをするような街にはだいたい一軒はありますよね。
鈴木:でも、一軒も本屋のないところも増えてきたよね。だったら喫茶店で待ち合わせて、30分前に行って本を読むのでもいいんじゃないの。
椎野:でも本屋に行くと新しい本との出会いもありますからね。
高木:その銀行で「読書通帳」というものを無料で配ってるんですよ。
椎野:銀行っぽい!
高木:25冊読んだらいっぱいになって、図書館に持っていくと認定証をくれるそうです。これを無料でやってるんだからすごい取り組みです
鈴木:本は図書館で借りてます。自分で買うとお金が大変だし。どうしても手元に残したい本は買ってますけども。自分としては面白いのが、コーナーがあるでしょ。美術とか世界史とか。月に30冊は借りられるから、何も考えないで本棚の左から30冊借りようとか。そうすると、まったく意味のないものもあるけど、たまにあっと思うものもありますね。自分が知ってるジャンルなら、別にもう読まなくていいんじゃない。知らないことに教えられる方が多いよね。
高木:でも鈴木さんはもう知らないことはないんじゃないですか。
鈴木:いや、いっぱいありますよ。筑紫哲也さんが前に言ってたけれども、『週刊金曜日』を読んでる人は『週刊金曜日』は読まなくていいんだと。『will』や『正論』を読んでる人は、それはもう読まなくていいから、別のものを読んでみなさいと。自分が敵だと思ってる人たちがどうしてそういうことを考えてるのか。
高木:なるほど。それはそうですね。何か新しい分野の本を読みましたか。
鈴木:脳心理学だとか。サイコパス、洗脳、そういう本を結構読みましたね。
高木:では、今年の目標です。いや、目標じゃないですね。ノルマです。達成出来なかったら、罰があると思うくらいものですね。
鈴木:んー。人に強制するようなものでもないからね。愛国心と同じで。(笑)
高木:自分に強制するものですね。鈴木さんは同じですか。
鈴木:はい。一日一冊で、月に30冊。同時に10冊くらい読んだりしますけど。
金井:同時に読むんですか? ごちゃごちゃにならないですか?
鈴木:なったっていいんじゃないですか。みんなそうでしょう。
高木:僕も5、6冊くらい同時に読みますね。僕のノルマは、今年は400冊です。
鈴木:昨年500冊だったのに? 1000冊じゃないの?(笑)
高木:1000冊は…死ぬまでに一度は挑戦したいですけど。(笑) 今年は舞台の予定があるので400冊にします。椎野さんは。
椎野:昨年クリア出来なかった60冊です。今年は初めて出来そうな気がする!
鈴木:月に5冊? 目標が低いねぇ。
椎野:(笑)
高木:椎野さんが頭抱えちゃいましたよ。(笑) これは人それぞれですから。推奨ノルマとしては、60冊っていいと思いますよ。最近は平均読書数ってとても低いですから。年間2、3冊くらい。
鈴木:大学生でも月に1冊も読まないなんて、それはもう動物じゃないの。ネコ以下だよ。
高木:それは名言ですね。本を読まない人はネコ以下。(笑)
鈴木:そのうちネコが本を読めるようになって、人間をバカにしますよ。ネコに選挙権が与えられますよ!(笑)
高木:高木あさこさんのノルマは?
高木あさこ:50冊にします。私も家に帰ったらすぐにテレビをつけてたんです。寂しいから。(笑) 今年はテレビも我慢して、寂しい自分を克服しようと思います。
高木:50冊だと、月に4冊ですね。だいたい週に1冊。意外とこのくらいの目標の人は多いかもしれないですね。どんな本を読みますか?
高木あさこ:吉村昭の本を読もうと思って買いおいてるんです。『熊嵐』(吉村昭/新潮文庫)を読んで面白かったから。
鈴木:『熊嵐』! 良かったでしょう。
高木あさこ:良かったです。『生麦事件』(吉村昭/新潮文庫)も買ったんです。うちが近所だから。
高木:吉村昭はいいですね。僕のお勧めは『朱の丸御用船』(吉村昭/文春文庫)です。『仮釈放』(吉村昭/新潮文庫)もいいですし、あと『破獄』(吉村昭/新潮文庫)は名作ですよ。
高木あさこ:買い置きがあるから、その本を読みます。なるべくお金をかけないように。
高木:僕も持ってる本を読みなおした分が入ってます。500冊全部を新たに買ってられない。それはもう金銭的に。文庫本自体も昔に比べて高くなってますよね。たぶん今は『人間失格』(太宰治/新潮文庫)が一番安いんじゃないですか。302円。
椎野:1000円を超えるものも時々ありますもんね。
高木あさこ:寅次郎さんは本を新たに買う必要はなさそうですね。
高木:寅次郎さんのノルマは?
寅次郎:今の話の流れから、僕は70冊を目指します。
高木:昨年の5倍近いですよ! すごい成長率ですね。大きく何かを変える必要がありますよ。
寅次郎:サービス残業をやめろと言われているので、さっさと帰って本を読みます。
椎野:本をたくさん読んで手放せば、3つある本用の部屋が不要になって部屋代が助かるかもしれませんよ。(笑)
高木:金井さんは?
金井:私は60冊にします。私は読み始めても嫌だったら頑張れないで挫折するんです。なので好きな本が60冊並ぶリストを作れたらいいな、って思います。
鈴木:そうすると、自分の好きな作家しか読まなくなるから良くないんじゃないですか。挫折を恐れちゃダメですよ。
高木:他の人が読んだものを読むのもいいですね。自分が選んだものではないものを読んでいく。
金井:そうですね。発見はしたいです。知らないジャンルも含めて、人のお勧めも、チャレンジした本も、昔読んだ本の再読もあって、いい感じにバランスの取れたリストを、来年の今頃お見せ出来るように頑張りたいです。
高木:去年読んだ本のベストワンを発表していきましょう。鈴木さんは何でした?
鈴木:これかな。『第一番に捕虜になれ』(清水孝/青灯社)サブタイトルは「帝国日本と『めめしさ』」。
椎野:「鈴木邦夫をぶっとばせ!」に書いてありましたね。
鈴木:勇ましさだとか、雄々しさだとか、それだけじゃなくて、「めめしさ」があったんだと。普通、「めめしさ」って使わないと思うんだよね。僕だったら「やさしさ」とか、そういう言葉を使うと思うね。「めめしさ」って言葉を使う勇気はないな。勇気のある本だと思います。
椎野:鈴木さんが帯を書いてるんですね。
鈴木:「めめしさ」があったから、日本は今までやってこられたんだと。「めめしさ」の再評価なんですよ。
高木:すごい言い方ですよね。鈴木さんも玉砕についてはだいぶ考えて、書いていたじゃないですか。
鈴木:この本では、玉砕なんてしないで捕虜になれ、という。僕も同じテーマで書くとしても、こういう言葉は使えない。証拠を挙げつつ書いているから誰も批判出来ないし、圧倒的な本だなぁ、と思います。売ろうと思ったらもっとやり方があっただろうけど、アホなやつには買ってもらわなくていいと思ったのか。
高木:鈴木さんは共感したんですか。
鈴木:共感しました。
高木:それは、今だから共感したんでしょうか。昔だったら…
鈴木:しないですね。焼き討ちですよ。(笑)
高木:なんで共感するようになったんでしょうか。
鈴木:戦争もやっぱりルールだと言ってるんですよ。書いた人は年配の人なんだけど、今売れようと思ったらこんな書き方しないと思うんだよね。本当は日本が一番強かったんだとか書きますよ。日露戦争の頃は、捕虜収容所は全国にあって、ロシアの兵隊たちをものすごい優遇してるじゃないですか。四国なんかでは外出自由で、女郎屋に上がったりしてたんでしょ。その中にはお兄さんとかお父さんを殺された人もいる。そういう人は冗談じゃないと言って襲うかもしれない。でも政府が偉いのは「いや、彼らはもう敵じゃない」と言う。戦って、降伏した人間なんだから、それはもう武士道としてきちんと扱うべきだと。そういう風に言える政府もすごいし、納得する国民も偉い。ロシアで捕虜になった日本人は新聞に名前が出て、帰ってきたら「大変な苦労をしたね」ってみんなが労わってたんだって。大東亜戦争の時はないよ。捕虜になったことは絶対隠してるし。捕虜になったなら自決しろとか言われる。日露戦争の後で、なんでそういう風にかわったのかと。日露戦争に勝って、驕りたかぶって、よその国を蔑視するようになってから日本はダメになんたんじゃないかと。それは僕も思ってたんだけど。
高木:日露戦争に勝ったことが敗因、という視点ですね。
鈴木:そう。日露戦争までは従軍慰安婦も捕虜虐待もなかったっていうし。日本は遅れている国だとコンプレックスを持って、世界に恥ずかしくないように国際ルールを守って戦わなくちゃいけないという方が、まだ日本としては素晴らしかったんじゃないかと。僕だったらもっと別の言い方にすると思うけど、敢えてこういうタイトルにするのはすごいな、と思います。
高木:高木あさこさんは、去年何かありましたか。
高木あさこ:吉村昭にチャレンジしようと思って初めて読んだのが、『熊嵐』だったんです。これを足掛かりにして吉村昭を読んでいこうと思います。記念作品として、『熊嵐』を挙げます。
高木:去年はあちこちで平積みにされてましたね。なぜか熊の本が去年はたくさん出てた。
高木あさこ:くまブームだったんでしょうか。
鈴木:司馬遼太郎と対極にありますよね。司馬遼太郎だったらもう少し理屈をつけるじゃないですか。吉村昭は救いが全くない。
高木あさこ:私、報われない方が好きなんですよ。(笑)
鈴木:熊が、男よりも女の方を喰っちゃう。子供だけを食べちゃう。残酷だなぁ、と思うけど、人間だってそうだもんね。魚とか。そういうの、今の作家だと書けないでしょうね。
高木:吉村昭は見る目が冷徹ですよね。『朱の丸御用船』や『高熱隧道』(吉村昭/新潮文庫)も残酷な話です。でも冷酷だから人間のヒューマニズムが出るのかなぁ。僕が鈴木さんと本の話をしたのは、吉村昭の話が最初でしたね。一水会の忘年会で、鈴木さんが「吉村昭は読みましたか?」って。「何が一番好き?」って聞かれて、『破獄』って答えたのを覚えています。寅次郎さんはどうですか?
寅次郎:迷うんですよ。3つ挙げてもいいですか?
高木:1冊だけですよ!
寅次郎:だとすれば『64(ロクヨン)』(横山秀夫/文藝春秋)ですね。ただそれは前半のベストワンなんですよ。後半は『キリンビール高知支店の奇跡』(田村潤/講談社+α新書)です。高木さんのリストにも入ってましたね。
高木:売れてましたね。色んな読み方が出来る本でした。
寅次郎:セミナーにも行って話を聞いてきました。僕は敬意を表して、スーパードライからキリンビールに変えました。(笑)
高木:金井さんはどうですか。
金井:『サッカーと愛国』(清義明/イースト・プレス)っていう本です。
鈴木:お~。
高木:「愛国」って単語にはみんな反応しますね。(笑)
金井:著者の清義明さんは、私が好きな横浜F・マリノスのサポーターリーダーをされてた方です。
高木:あちこちに書評が出てましたね。読んでみたいと思ってました。
金井:サッカーのサポーターの人たちって世界中にいて、色んな民族、色んな宗教の人たちがバカみたいに応援してるじゃないですか。この清さんも、言わばバカの一員です。以前サッカー場で「ジャパニーズオンリー」って横断幕が貼られて問題になりましたけど、その背景を丁寧に読み解いています。他にも、ヨーロッパでは侮蔑になるバナナを振るって行為をする人とか、日韓戦で旭日旗を振る人とか、スタジアムでやってはいけないとされていることをやっちゃった人に会いに行って、どうしてそんな風になったのかが書かれているんです。
高木:ノンフィクションライターなんですか。
金井:ライターのほかにもいろいろなさっているようで、これが最初にお書きになった本だと思います。ヨーロッパには極右みたいなサポーターが多いチームもいっぱいある中で、ドイツには宗教の多様性やLGBTを認めてるチームがあるとか。そういうことが色々書いてあって面白かったです。
高木:椎野さんはどうですか。
椎野:ここに金井さんがいるから言うわけじゃないですが、『酒場學校の日々』(金井真紀/晧星社)これが面白かった!
金井:嬉しい! ありがとうございます!
椎野:新宿ゴールデン街の酒場で、週に一回パートタイムで働くことになった彼女が出会った人たちが、面白いんですよ。この人会ってみたい、と思うような。軽妙な筆なんですが、その情景がよくわかる描写なんです。ビジネスダイアリーにつけている感想文は「ちょっぴり悲しいが、心ゆったりする良い本。出てくる人物像もそうなのだろうが、金井という書き手を得たことが學校の勝利。自分が草野心平に心酔していたから偶然ではないのだが、金井がそのまま登場人物たちに溶け込んでいる様が何とも楽しい。最後はケレン味たっぷりに書けば感涙のはずだがそうしない。全体にそうだが、抑制の利いたあっさり素描なのに生き生きと人間の人生が立ち上がってくる。僕自身は、最後の方にやっと出てくる店を開けるルーティーンの描写で泣いた。」
金井:褒められすぎてハードルが上がりますね。(笑)
高木:ぜひ読んでみます。
鈴木:最後に高木さん。
高木:吉村昭や太宰治など、好きな本はいっぱいありますが、やっぱり読んですごいなぁと思ったのはこれ以外ありませんでした。『昭和天皇実録』(宮内庁/東京書籍)です。昭和天皇が生まれた時から、侍従日記や女官日誌、木戸幸一日記とか、そういうものを宮内庁がまとめて、一つの正史にしたものです。年に2回、3月と9月に2,3冊ずつ出てて、今は9巻まできました。待ちに待った昭和18~20年です。
高木あさこ:一番盛り上がってるところですね。
高木:どんな小説よりも面白いです!
金井:それで昭和64年までいくってことですか。すごい刊行物ですね。
鈴木:それに、分厚い割に安いんですよ。1890円。普通なら1万円くらいするよね。
高木:この金額が事件だと思いますよ。
椎野:僕も買うだけは買いましたが、まだ読んでないです。でもこの厚さで1冊だと、ノルマの60冊行かないかもしれない。(笑)
高木:読みやすいですよ! 文字数だけなら普通の文庫より少ないかもしれないくらい。
鈴木:全部で18巻ですか。置き場所が大変だね。(笑)
高木:鈴木さんは、読書で色んなことを学んできたことがあるでしょうが、大学受験で色んなことを学んだと。そういう視点です。僕は大学受験をしていないので何とも言えないのですが。
鈴木:毎日新聞のネットの取材で受験のことを書いたんですよ。考えてみたら、ノルマを決めて勉強するとか、計画立てて生きるというのは受験から学んだことが多いなぁ、って。
高木:ノルマもですか。
鈴木:一日何時間は読むとか、そういうのも含めて。一般的には重要じゃないけど自分にとっては重要だとか、受験の時に学んだことだな、って。知らず知らずのうちに受験勉強みたいなことをずっとやってるんだなぁって思って。
高木:具体的には、受験のときにノルマがあるというのは、勉強法として、ってことですか。
鈴木:そうそう。国立と私立を受けるのでは違うじゃないですか。早稲田の場合は3科目だったから。国語と社会と英語。そのうち、英語の配点が大きいわけですよ。だから英語には特に力を入れましたね。僕は英文解釈が出来なかったので、英語の塾に行ったりとか、家庭教師をつけてもらったりしてましたね。他のものより倍の時間をかけて、自分は英作文が不得意だなって思ったら、英作文の演習問題を暗記するくらいいっぱいやった。
高木:自分で目標、ノルマを決めたんですか。
鈴木:社会に出てからも、計画を立てたり時間を決めたりするっていうのはそれが役立ってるんじゃないかな。
高木:それ、性格かな、って気もするんですよ。自分でノルマを立てて、計画を立てて、クリアしていくっていうのは。
鈴木:ヒットラーの『わが闘争』を読んで、それ以外もヒットラーの書いたものを色々よんだんだけど、彼は、トランプみたいなもので、あんまり人を信用しなかったと思うんだよね。でも何故、部下がよくついてきたのかと言ったら、ヒットラーは、部下をよく可愛がったと。文房具の手入れをするように可愛がったと。それで謎が解けましたね。あ、文房具だと思えばいいんだと。一水会とか学生運動をやってる時も思ったんだけど、ヘンな人がいっぱいいるでしょ。それは、あんまり期待しちゃダメなんですよ。なぜこんなことが出来ないのか、って。コンパスに虫眼鏡を求めちゃいけないし、ハサミにのりを求めちゃいけない。でないと、コイツはやっぱり特攻隊で使っちゃおうとか、思っちゃうんですよ。
高木:ヒットラーってそうなんですよね。全ての人をそういう風に使ったと。見沢知廉も、ヒットラーをすごい好きで『わが闘争』から入ってる。見沢知廉も何人も弟子を取ってる。それで可愛がってるんですよね。それこそ文房具のように。(笑) その人の能力に合わせて、使うと。
鈴木:信長や秀吉もそうかもしれないね。100パーセント人間として見たら、出来ないですよね。
高木:100パーセント人間として見たら、軋轢が出るじゃないですか。みんなが人間としてうまくやろうとすると、どこもうまくいかない。トランプさんのように、人を人とも思わないやり方の方が、案外、機能するかもしれない。
鈴木:そうだよね。フォー・ザ・ピープルはうまくいくかもしれないね。バイ・ザ・ピープルばっかり考えてちゃダメでしょ。
高木:受験では、ノルマじゃないじゃないですか。
鈴木:でも僕は結構、時間とかノルマとかかけて勉強しましたね。それで量をつぎ込めば出来ると思った。文科系だったからかもしれない。数学とか理科だったら、いくら時間をかけても出来ないことは出来ないですよ。
高木:一日の勉強時間って決めてました?
鈴木:決めてました。休みの時は一日を三分割して。午前中は国語、午後は社会、夜は全部英語、とか。
高木:ちゃんと勉強したんですか。
鈴木:しましたよ。それはもう。早稲田の政経を受けようと思って。
高木:皆さんはどうですか。受験勉強はしましたか。
金井:あんまりよく覚えてないです。
鈴木:椎野さんは?勉強したでしょ。慶應入るんだから。
椎野:勉強しましたね。高校2年まではラグビー部で、練習にすべて出ました。部を引退してから、一年間くらいは勉強付けでした。
高木:それは、自分で時間を決めて勉強してたんですか。
椎野:夏に避暑地に行ったときは一日10時間勉強しましたね。
高木:鈴木さんは、その受験の体験が、今に生きてるという。今の読書の考え方にも生きている、という論点です。椎野さんはどうですか。
椎野:3年生の春に友人が映画を撮るということで、御前崎だったかの民家で合宿した時、僕だけ参考書を持ってたんですよ。仲間には笑われたんだけども、そいつらはみんな一浪して、僕だけ現役で慶応に受かった。学力と言うのは頭の良し悪しというよりは、時間量の差なんだとつくづく思いました。読書や仕事も、結局はそうだと思います。そう思うと、心を入れ替えて、今年は最低でもノルマを達成します。
今年の対談も面白かったし、とても勉強になりましたね。私は、去年は、「月30冊」のノルマを達成できない月があって落ち込みました。年間を通して「月平均30冊」は何とか達成しました。今年は気を引き締めてやります。それと、椎野さん、寅次郎さん、金井さん、あさこさんたちの読書法やそれぞれの視点が見えたのも良かったですね。
何故本を読むのか、どうやって読むのか、そういう基本的なことを考え、他の人と話し伝え語り合うこともできます。来年の一月にはどんな話ができるのか、今から楽しみですね。
今週は「読書対談」の特集です。自分でもとても勉強になりました。又、高木さんには随分とご苦労をおかけしました。ありがとうございました。
①高木尋士氏は毎月、読書会をやってるんですね。かなり難しい本に取り組んでます。それでも皆、喜んで来るんだからすごいです。3月27日(月)の「読書会」をのぞいてみました。高田馬場の「ミヤマ」の会議室です。ヴォルテールの『寛容論』をテキストにやってました。皆、真剣です。
②3月29日(水)、北朝鮮問題学習会に行きました。
〈第20回 緊急時局北朝鮮問題セミナー。金正男暗殺事件の背景と最新北朝鮮事情〉。五味洋治さんが講師。さすがに詳しい。金正男さんに何度も会ってるし、メールのやりとりをしていたそうだ。
③五味さんと。
④3月26日(日)新国立劇場で、美輪明宏さんの芝居を見る。「近代能楽集」より。「葵上・卒塔婆小町」。とてもよかったです。
⑤新国立劇場で。上演後、楽屋に行って、美輪さんと話をしました。
⑥高円寺の焼き鳥屋「一徳」。若松孝二監督の映画「11.25自決の日」でも、ここは使われてました。監督もよく飲みに来てました。
⑦自決、介錯をした時について聞かれ、「楯の会」の人が、こう手を出すシーンがあります。首を持った重さを表わしたのでしょう。若松監督の「11.25自決の日」のこのシーンはこの店で撮ってます。
⑧太田愛『天上の葦』(KADOKAWA)。すごい小説です。一気に読みました。公安も出てきます。
〈生放送に映った不審死と公安警察官失踪の真相とは?〉
私の公安の本(『公安警察の手口』)も、参考にしたと言ってます。ありがたいです。名誉なことです。公安警察を扱って、これだけの小説が書けるんですね。驚きました。すごいです。太田さんは、「相棒」などの刑事ドラマの脚本も書いてます。だから、詳しいのです。
⑨あの衝撃の映画「いぬむこいり」がいよいよ上映です。5月13日からです。新宿k's cinemaです。
⑩〈天孫降臨の地より、日本の千年を撃つ〉
といいます。美しくもパンクな、4時間の表現世界です!
⑪私もパンフレットに原稿を書かせてもらいました。「拭いきれない心の闇。鬼気迫る闘いが始まる」のタイトルで。
⑫6月10日(土)高円寺パンディットで、元「楯の会」そして元「一水会」副会長の阿部勉氏について語る夕べを開きます。又、阿部氏が出演した映画を紹介します。出演は日野繭子さん(女優)。小川晋さん(映画史研究家)。そして鈴木邦男です。
⑬カミュの代表作「正義の人びと」を劇団「再生」が上演。プレトークに私も出ます。4月28日(金)午後7時から。芝居の前にやります。高木尋士さんと。テーマは「正義の尺度」です。