2月13日(月)の10時過ぎだった。
トントンとみやま荘のドアを叩く音がする。
「宅急便かな?」それとも宗教の勧誘かな、と思いながら、ドアを開けた。
何と、作家の青木理さんが立っていた。ヌーッと立っている。という感じだ。
大きい。これには驚いた。「一体、どうしたんですか?」と聞いた。
見ると、すぐ後ろにテレビカメラを携えた人がいる。そしてスタッフも。
青木さんと私が出会い、驚き、話してるとこも撮っている。
「ドッキリカメラですか?」なんて聞いちゃった。そんなことはありえないのに。
「今日、テレビ朝日の取材が入ってるでしょう」と青木さん。
「はい、よく知ってますね」「そのインタビュアーが私です」と言う。
エッ? 知らなかった。
10日ほど前に、テレ朝のスタッフと会った。
連合赤軍事件から今年で45年になる。今、どう考えているのか。事件関係者、それに、連赤に関心を持ってる鈴木さんに聞きたいという。
じゃ、局に行くか、どっかの喫茶店の会議室がいいんじゃないのかな、と言ったら、「ぜひ、ご自宅で」という。みやま荘で撮りたいらしい。
「汚いし、片付けてないから」と色々、拒絶したが、ダメだった。押し切られた。
それで、2月13日(月)の午後2時にスタッフが来ることになっていた。
何という番組で、誰が聞き手かも分からない。局の人がやるんだろうと思っていた。
そしたら、1時半頃に、青木理さんが現われた。というわけだ。
合計4、5人がみやま荘に入り、撮影。その辺のイスに二人で並んで座り、話が始まる。
「ちょっと二人の位置が近過ぎます」とディレクターは言うが、部屋が狭いんだし、仕方ない。
部屋が狭いし、汚いんだから、二人が机をはさんで、ゆっくり話してるなんて絵は撮れない。どうしても、ひっついて話してしまう。
昔は、みやま荘にもテレビの取材が来たし、小さな机を置いてたこともある。
しかし、今はない。そんな取材もないし、本ばかりで、ゴミ屋敷化している。
まあ、寅ちゃんの家ほどではないが。あそこまでいったら、もう人間は終わりだ、と思って、必死で片付けている。
「本はどうしてるんですか」と青木さんが聞く。人にあげたり、ブックオフに売ったり。ともかく、手放していますよ、と言った。
それにしても、テレビの取材で局のひとが家に入るなんて本当に久しぶりだ。10年ぶりくらいかな。
前はよくあった。見沢知廉氏追悼映画を撮った時は、何と部屋にレールを敷かれた。重いテレビカメラが走るための、レールだ。そんなことをやられたのは初めてだった。おかげで、みやま荘は随分と傷んだ。
又、大阪の番組では、「家で一家で食事をしてる風景を撮りたい」と言われた。まあ、いいですよ、と返事したけど、「家族」がいない。
じゃ、レンタル家族を借りよう。奥さんと娘を借りて、「一家」にする。そして一家で家族団欒の中で、国の話、運動の話をする。
「面白いですね。これでいきましょう」と初めは局も賛成してくれたが、ギリギリになってダメになった。「やらせ」だと分かっちゃうし、まずいという。
いいじゃないか。〈右翼〉だってやらせでやってるんだから。と弁明したが、ダメだった。
あとは何があったかな。もう忘れてしまった。それで今回は久しぶりのテレビ取材だ。
植垣康博さん、加藤倫教さん…など、連合赤軍事件に参加した人たちにも、たっぷりと話を聞けたと青木さんは言う。連赤に関係してないのは私だけかもしれない。
3月9日、BS朝日で午後7時から放送だという。
話変わって、「和歌山カレー事件」だ。
今、「ヤフー知恵袋」で大変な反響があり、カレー事件の見方が変わってきた。
私はずっと知らなかったが、寅ちゃんに教えてもらい、見た。
「これは凄い!」と思った。初めは、シロウトのやりとりだったが、京大の河合潤教授が入ってきて、いきなり、ブレークした。
「エッ! 眞須美さん以外に犯人かもしれない人がいるの?」と皆、驚いていた。
カレー事件始まって以来の衝撃だ。私だって、驚いた。
〈和歌山カレー事件、林眞須美さんは無実!
「ヤフー知恵袋」で拡大する反響〉
と大きく書かれている。ちょっと紹介しよう。
〈今、インターネットで「和歌山カレー事件」のことが大きく話題になっている。今年12月19日、「ヤフー知恵袋」に、和歌山カレー事件の真相は、林家同様ヒ素を保持していた近所の人がいたずらしたものですか?」という趣旨の質問が載った。 質問者はさらに「カレー事件の前年、公園の池の鯉が毒物投入で全滅したり、野良猫が毒物入り肉団子で大量死しています。カレー事件のあった集落では複数の家や事業所がヒ素を保有していました」とも書いている。
今まで、こうした疑問が出たことはなかった。そこで、河合潤教授が、「ヤフー知恵袋」に出ていって、カレー事件の解説を書いた。
林さんに死刑宣告をした裁判官は、「ヒ素など持っているのは、他にいない」「当時、ヒ素は他に流通していなかった」という。
だから、ヒ素を持ってた眞須美さんが逮捕された。
しかし「ヤフー知恵袋」では、この地区の人々は、かなり広範囲にヒ素を家庭に持っていた。又、農協などでも売っていた。
それを忘れてはならない。と河合さんは言う。
普通の家でも、白アリ、ネズミなどを駆除するために使われていた。
農協などではヒ素として売られたわけではなく、「殺鼠剤」や「毒虫駆除剤」として売られていた。
さらに、和歌山はミカンが有名だ。このミカンの木の土にヒ素をふりかければ甘くなるといわれていた。だから、一般の人たちの間にも広く使用されていた。
警察やマスコミは、こうしたことは発表しない。
眞須美さんの「有利」になるような情報は一切出てないのだ。
この「ヤフー知恵袋」は凄い反響で、わずか2週間で、25万人を超す人たちが見た。
そして、カレー事件への疑問がわいた。さらに、河合教授や弁護団もこれに勢いを得て、2月4日(土)、大阪で急遽、「カレー事件」の集会をやることになったのだ。
弁護団、河合教授、そして飛松五男さんが、「この裁判はおかしい。国民の多くの人がそれを言い出している」と、「ヤフー知恵袋」のことを紹介する。
このことについては、私も関心があったので、大阪まで行き、弁護士さんや河合教授に詳しく聞いた。
「和歌山では、どのくらいの人々がヒ素を持っていたのか」「毒虫駆除だけでなく、ミカンを甘くするためにも使われていた。その実態を教えてほしい」と。
眞須美さん無実へ、大きな一歩をあゆみ出したのだ。「ヒ素なんかを持ってる人間は他にいない。だから、林眞須美さんは犯人だ」と決めつけていた。
でも、それは嘘だったのだ。眞須美さんの容疑も消えている。そんな気がする。
それに、これは重要だが〈カレー事件〉以前は、池の鯉が絶滅したり猫が殺されていたこともある。家にあったヒ素を、好奇心で使ってしまったのか。
新聞記者に聞いたが、こうした鯉、猫殺しは記事にならなかった。
だったら、あの「カレー事件」だって、こうしたいたずらの延長線上にやったのかもしれない。少なくとも警察だってそう思ったはずだ。
しかし、それは一切出ない。「ヒ素なんて、持ってる人はいない。持ってるのは眞須美だけだ。だから、こいつが犯人だ!」と、初めから決めつけていた。
でも、今回の「ヤフー知恵袋」が投げかけた疑問は大きかった。「眞須美さんは無実じゃないか!」と皆、思い出した。
「でも眞須美はヒ素を持ってたし、それを使って詐欺事件を起こしていた」と言う。
それは事実だ。金にはシビアーで、自分でヒ素を飲んで体を壊し、それで保険金を取っていた。
勿論、これは犯罪だ。しかし、少しでも多く使って、死んだりしたら大変だ。元も子もない。
だから、絶対に死なない程度に毒を投与する。そのサジ加減はプロ級だ。
たとえば、池の鯉にヒ素をやる。猫にやる。そういう、いたずらをした人間は量とか関係ない。
少なかったら効果はないし、多かったら死んでしまう。よし、人間にも使ってみようと悪魔的なことを考えたのかもしれない。
少し、食中毒を起こして病院に運び込まれるくらいのことを起こしてやろう、と思ったのだろう。
ところが、分量がよく分からない。それで、多く入れてしまった。
少々のいたずらで満足と思っていたが、大きな殺人事件になってしまった。犯人は青くなっていることだろう。
ヒ素を買う時、いや、ヒ素が入った殺虫剤、殺鼠剤を買う時には、薬局や農協でも住所と名前を書かされる。
警察だって、その名前を提出させて、調べたはずだ。
初めは、毒虫を殺す、あるいはミカンを甘くするために使う。と思って買っておいたはずなのに、例の「カレー事件」以降は、ヒ素を持ってる者をピックアップしろ! となった。
関係ないのに巻き込まれたくなくて、そう思ったのだろう。今では、かなりの家であわてて捨てたのだろう。
もし眞須美さんが、近所の住民に憎しみを持ち、仕返ししようとしてヒ素を使ったとしたら、殺しはしない。病人に運ばれるくらいのことをやっただろう。
だって、どこまでが危ない、致死量になるということは、よく知っているヒ素の。だって、保険金詐欺で訴えられてるのだ。
分量の仕込みなどは間違うはずがない。又、そんなことをしても一銭にもならない。お金にならないことは一切やりません、と言っていた。
これは正直な告白だろう。
カレー事件はこれで変わる。そう思う。
⑫「明治村」です。日本には「(日光)江戸村」「明治村」「大正村」「昭和村」と、時代を記念するものが4つあります。2つは見ています。あとは「大正村」と「昭和村」です。これも行かなくちゃ。「明治村」は予想を大きく超えてました。もの凄い壮大な規模です。そこに記念となる建物を移築したのです。新しく建てたのではありません。かえって大変だし、出費がかさむのです。ここは金澤監獄です。