地下鉄丸ノ内線で新宿に降りた。地下通路から紀伊国屋書店の所に出た。
地上に出て、ひょいと前を見たら、あったんですよ。この、大きな「ポスター」が!
〈今年一番の話題書。早くも登場!
『愛国者の憂鬱』(金曜日)
日本を憂う!
鈴木邦男×坂本龍一〉
ウッ!と思いましたね。一瞬、息が止まりました。
何が何だか分からなくなって、ともかく、店の中に逃げ込みました。悪いことをしたんじゃないのに、逃げ込んだという感じです。
余りに思いがけない事態に遭遇すると、人間はともかく逃げるんですね。
このポスターは、紀伊国屋の書店の前に、せり出して作られた「新刊のコーナー」です。
そこに、大きく貼り出され、本も平積みにされてたんです。店の中に逃げ込んだら、そこにも平積みにされてたんです。ウワー、凄い、凄い。
「でも、待てよ」と、少し冷静になって考えた。書店発売は明日(1月28日・火)のはずだ。それなのに、どうして?
そうか。「週刊金曜日」の赤岩さんが言ってたな。1月28日発売ですが、一部の書店では、「先行発売」をしてます、と。それが、これだったのか。
だからなんだ。角川oneテーマ21の編集長や、いろんな人から、「読みました。よかったですね」というメールをもらった。出版社同士は早く手に入るのかと思ったが、「先行発売」で買ったのか。
それで気分を落ち着かせて、「そうだ。せっかくだから写真を撮っておこう」と思った。
さっきは、突然、自分の本のポスターを見て、驚いた。
坂本さんと私の顔写真も大きく出ている。「ギャー!写真が出ている!」と思って、瞬間的に逃げたんだ。
指名手配の写真を見て、ヤバッ!と逃げ出した犯人のようだ。まるで連合赤軍の植垣さんじゃないか。
いやいや、私は、ただ恥ずかしかったんですよ。地下鉄を降りて、地上に出た瞬間に、このポスターに出会ったんで…。
書店に逃げ込んで、気持ちを落ち着かせ、再び、外の「新刊コーナー」に行った。
いきなり写真を撮ると、不審者と思われるので、そこにいた店の人に声をかけた。
「あのー、これ写真撮ってもいいですか?」。店員は不審な顔をしている。
「ダメですよ」と言う前に、私は言った。「実は、これ、僕なんですけど…」。
「あっ、鈴木さん!」と店員さん。「どうぞ、どうぞ。売れてますよ!」。
いやー、嬉しかったですね。「お世話になります。本当に、ありがとうございます」とお礼を言いました。そして写真を撮りました。
そうだ。この前の日(1月26・日)、その植垣康博さんに会ったっけ。
「平沢武彦氏を偲び、帝銀事件を語りつぐ会」に行ったら、彼も来てたのだ。
連合赤軍事件に参加し、同志9人の殺害に参加し、27年も刑務所に入っていた人だ。
出所して、今は静岡市でスナック「バロン」をやっている。若い女性と結婚し、かわいい男の子もいる。
山に集合し、同志殺害に参加する前は、「M作戦」で、銀行・郵便局強盗をやって、全て成功している。強盗のプロだ。
ある日のこと、車で逃走中、信号で停まったら、そばに、自分の「指名手配」の写真が貼ってある。似ている。
信号待ちをしている少年がそのポスターを見ている。そして、こちらを振り返る。
アッ!その本人がいる! 驚いたでしょうね。その少年も。
それ以上に、「犯人」が驚く。「ヤバ!」、気付かれたか!と思い、赤信号を無視して、車を急発進させる。
私なら、そうする。ともかく逃げる。本の宣伝の「ポスター」を見ただけで、逃げ出した位だし…。
ところが、植垣さんはプロだ。そんな土壇場でも少しも慌てず、少年に向かってニコッとして、さらに手を振った。そして、ゆっくりと車を発進させた。
少年は、呆気にとられて、ただ見つめていた。
これは夢か。映画の撮影のシーンなのか。信じられない。だから、交番に駆け込もうなどとも思わなかった。車のナンバーを控えようなどとも思わない。
いい話ですね。殺伐とした連合赤軍事件史の中にあって、唯一、ホッとし、心が洗われるようなお話だ。
植垣さんと会った翌日、自分の写真を見て、瞬間的に逃げ出すことになるとは私は知らない。
そうだ。この時の少年は今、どうしているのだろう。7才か8才だとしても、今は50位か。
もし、これを読んでいたら、連絡下さい。植垣さんに紹介しますよ。「感動のご対面」が出来ますよ。
そうだ。その植垣さんに、1月26日(日)に会ったので、この『愛国者の憂鬱』をあげたのだ。「あさって発売ですけど。見本誌をもらったので」と言って。
そしたら、すぐさま読み始めた。集会の講演や報告など全く聞いてない。思わず、その「証拠写真」を撮ってしまった。何の証拠か知らんが、まぁ、本当に読んでた、という証拠ですよ。
そして、「おっ、俺のことが出てる!」「うん、そうだよな…」と、呟いている。
そうか、そうか。植垣さんの話から、始まったんですよ。『愛国者の憂鬱』は。少年に目撃されて、ニコッと笑い、手を振って別れた。その話だ。いや違う。
私は、坂本龍一さんとこんな話をした。連合赤軍事件は1972年だ。三島由紀夫は1970年に自決。高橋和巳は1971年に病死。
連合赤軍事件の時、この2人が生きていたら、もっと別なことを言ってくれただろう。事件は阻止出来ないにしても、世間とは全く違う評価をしただろう。
悔しさを込めて植垣さんが言ってたのだ。
〈連合赤軍事件には、夢もあったし希望もあった。でもそういうことは、一切無視されて、ただの『仲間殺し』だとされてしまった。『ほら、見ろ。革命なんて考えるからああいうことになるんだ』と、学生運動はみんな潰されてしまった、と言っていました。僕もそう思います。1972年に二人がいなかったことは大きかった〉
それに対し、坂本龍一さんは、こう答えてます。
〈その人がいることによって、国や社会の言説が一定程度、倫理的に抑制されるということがありますよね。僕の子どもの頃にはそういう人がもっとたくさんいたと思うんですが、だんだんいなくなってきて…〉
そこから、坂本さんとの歴史的な対談は始まったんですよ。植垣さんも喰い入るように読み耽っていた訳ですよ。
さて、この本だ。表紙は白を基調にしたシンプルなデザインだ。坂本さんと私のサインが書かれている。
あれっ、書いたかな。と思ったが、我々のサインではない。デザイン化したものだ。面白い。
坂本さんが評価している有能なデザイナーさんの長嶋りかこさんがやってくれた。写真は石郷友仁さんだ。素晴らしい。本当にありがとうございます。
本の帯には坂本さんと私の写真。そして、こんな言葉が。
〈教授、右翼と何の密談ですか!?〉
坂本さんは世界的な音楽家で、世界を飛び回り、又、博識だ。だから、よく「教授」と呼ばれる。
そんな大物が、どうして、小物の、変な右翼と会って、何を謀議してるのか。何を密談してるのか。
そして、こう書いている。
〈脱原発、天皇制、音楽の起源…。世間がアベノミクスに浮かれ、レイシズムの言葉が飛び交う中、危機感に駆られた2人が緊急会合…。
10時間にわたり思いを語り尽くした〉
そうです。これが「密談」の内容です。帯の裏には、相手をまず、どう思ったか。
「はじめに」を書いた坂本さん、「おわりに」を書いた私の文から抜き出して紹介している。
坂本さんは、去年の脱原発デモで初めて会った時の印象をこう書いている。
〈至近距離で見た鈴木さんの目の、なんと穏やかなこと。もう少しで仙人になってしまいそうな好々爺の目です。こんな優しい目をした人にあまり会った記憶がありません。 坂本龍一〉
いやー、嬉しいですね。驚きですね。恥ずかしいですね。
私なんて、昔は狂暴で、陰険な目だと思ってました。今でも、それは残ってると思います。「笑っても、目だけは笑ってない」と言われることが多いのに。嬉しいです。
では、私の坂本評です。
〈坂本さんのお父さんの一亀さんは多くの作家を見出し、育て、多くの作品を作った。でも、この世に生み出した最大の作品は「坂本龍一」だと思う。 鈴木邦男〉
坂本さんのお父さんは河出書房の名編集長だった。三島由紀夫、高橋和巳、小田実などを育てた人だ。
この3人は坂本さんの家にもよく遊びに来ていた。だから、子供の頃の龍一さんは、よく3人に遊んでもらったという。
そこで、植垣さんの話に結びつく。三島由紀夫、高橋和巳の2人を育てたのが龍一さんのお父さんの坂本一亀さんだ。
そこから、この本は始まるのだ。では、目次だけを紹介しておこう。
はじめに 坂本龍一
第1章 脱原発、「日の丸・君が代」、そして、憲法
第2章 坂本龍一と鈴木邦男の源流
第3章 音楽とは何か
第4章 個のない日本の行く先は
第5章 「地球意識」に向けて
おわりに 鈴木邦男
坂本さんの「はじめに」で、私のことを「仙人」「優しい目をした」と書いている。そんなことを言われたことがないので恥ずかしい。
坂本さんこそ、魔法の杖に乗って、世界を飛び回るスーパー仙人ですよ。
坂本さんは、「優しい目」のあとにこう書いてます。
「きっと長い時間、孤独に耐えて思索してきた人の目だろう」と
ウッと思いましたね。ホロリとしましたね。ドキッとしました。
「そしてこの脱原発の集会で会うとは、なんとも象徴的に今の日本の現状を表している」とも
50年前でもなく、10年前でもなく、3.11以後の脱原発デモの中で会った。だからこそ、こういう対談も出来た。
この日本の未曾有の危機の中にあって、日本のこと、日本人のこと、世界のこと…を考えていた。だから、その憂いを、怒りを話し合ってみたいと思った。
だが、話が噛み合うのだろうか。そう思ったようだ。
〈驚いたことに、鈴木さんは三島由紀夫と高橋和巳の愛読者であり、二人に思想的に大きく衝撃を受けているとのこと。三島も高橋も、自分の父が親しく仕事をしてきた文学者で、特に高橋和巳は父が我が子のように可愛がり尊敬もしてきましたから、僕としては特別な思い入れがあります。背景が異なる鈴木さんと僕の間に、こんなに強い縁があったとは驚きです〉
三島由紀夫と高橋和巳のおかげですね。この2人が、後押ししてくれて、対談が実現したのでしょう。
更に坂本さんは言います。
〈この対談をとおして、長い間深く考えることを避けてきた天皇制や日の丸・君が代について、鈴木さんは思ってもみなかった新鮮な見方を与えてくれたので、これからは恐れずにより深く考えを進めることができるような気がしますし、同様に国防、自衛隊、領土問題などに関しても、今まではそのようなことに大きな隔たりを感じていたのですが、壁がとりはらわれ霧が晴れたような気分です〉
こっちこそ、「世界のサカモト」に対し、失礼にも、「音楽の起源」や、「言葉と音楽はどちらか先に生まれたんですか」なんて聞いてしまった。
又、「民族音楽と世界音楽」について、「クラシックは、どうしてクラシックになったのか」「音楽と政治・権力の関係」について聞きました。
全くのシロウトだから私は、かえって聞けたのだと思います。
又、「戦場のメリークリスマス」や「ラストエンペラー」に出演した時の不思議な体験についても聞きました。
とても教えられました。あとは本を読んでみて下さい、と。
この本のタイトル『愛国者の憂鬱』ですが、これは、坂本さん自らが考えてくれました。高橋和巳の『憂鬱なる党派』から考えついたようです。
そして、「はじめに」でも、この「愛国」と「憂鬱」について、触れてます。
〈鈴木さんも僕も、自分の生まれたこの国に、倫理と矜持と品格をもってもらいたいと思っているし、国際社会から尊敬される国であってほしいのです。また言葉の美しさが文化にとって大事なこと。汚くののしる言葉や排外主義、際限のない貪欲さがいかにその社会の品格をおとしめるか。そして最後に真に国を愛するということが、たとえ最後の一人になっても勇気をもって真実を語り、理想を述べることにあると信じる点では、私たちは完全に一致しているのです〉
嬉しいですね。完全に一致している、と言ってます。
そうか。「最後の一人になっても」か。真の愛国者の覚悟だ。愛国者の孤独だ。だから、『愛国者の憂鬱』なのだろう。
紀伊国屋書店に出ていたが、「今年一番の話題の書」になるかもしれない。2014年のトップにこの本が出る。これは幸先がいい。2月、3月にさらに私の本が4冊ほどが出る。
他にも、今、進行中の仕事がある。頑張ってやらなくっちゃ。
〈[ラジオ]大竹まことゴールデンラジオ!(文化=後1:00)「メーンディッシュ」のコーナーは政治活動家の鈴木邦男さんを迎えておくる〉
驚きました。ラジオ欄に載るなんて。
私は2時に文化放送に行きました。2時25分から50分までの「メーンディッシュ」のコーナーに出ました。
本屋に行くと反韓論・呆韓論・反中国の本ばかり。それが売れている。ボロクソに隣国の悪口を言って、それで気分がスッキリする人が多いらしい。嘆かわしい。
問題があれば、直接行って、話し合い、喧嘩し、そして妥協点、合意点を探るのが政治家の役目だろう。それが、日本人にとっての「安全保障」でもある。
それを放棄して、国内の「安全地帯」にいて勇ましいことを言っててもダメだ。という話をしました。
それと、明日出る『愛国者の憂鬱』。これから出る、柏艪舎の本、連合赤軍の本、などについて話しました。
大竹まことさん、阿川佐和子さんとは久しぶりで、とても楽しかったです。
このあと、新宿で出版社の人と打ち合わせ。夜は講道館。稽古不足で、やられっ放しだった。夜9時から新宿で映画「小さいおうち」を見た。山田洋次監督。雑誌で〈戦争映画〉について書くので、見た。
池内ひろ美さんが講師で、初めに講演をする。そのあと、新年会。
学純同の大庭俊賢先生にも久しぶりに会いました。木村三浩氏も来て、挨拶してました。いろいろ調べられたり、マスコミの取材で大変なようです。
3時、「現代文要約」。
5時「読書ゼミ」。今日は、土屋達彦さんの『叛乱の時代=ペンが挑んだ現場=』(トランスビュー)を読む。
60年、70年代の学生運動を中心とした騒然たる時代の現場を取材し続けた記者の稀有な記録だ。「一記者の見た反体制運動の戦後史」だ。これを読んで、皆と話し合った。
〈サバイバル・セッション〉
〜フクシマからTokyoへ〜
雨宮処凛さん。Yukari&佐藤さとみデュオ。中下大樹、その他のサバイバーの皆さんが出演。何と、山本太郎さんも来てくれた。驚いた。私も第3部に出て、山本、雨宮さんたちと話をした。
②「今年一番の話題作。早くも登場!」と書かれてます。
〈右翼vs「世界のサカモト」、ホンモノの愛国とは?〉
そして坂本さんの言葉が。
「僕自身が右翼の愛国者になって、脱原発を言わなきゃいけないと真剣に思っていました」
覚悟の書です。決断の書です。
㉒朝日新聞(1月23日・北海道版)です。札幌時計台シンポジウムのことが出てました。
道警の裏金問題を告発したことで知られる原田宏二さん(元北海道警察釧路方面本部長)が講師で特定秘密保護法案について。
「何が犯罪かが分からず、国会ではなく行政が犯罪を決める。罪刑法定主義に反する」と批判しました。
㉓「アエラ」(2月3日号)です。竹邑類さんの『呵呵大将 我が友、三島由紀夫』(新潮社)の書評を書きました。三島が書いた短編「月」のモデルです。
50年経って、その「モデル」から見た三島を語っています。まるで、「月」の続編のような新鮮な作品になってます。知られざる三島の一面が描かれてます。