「鈴木さん、早稲田の政経を出て、そんなことも知らなかったんですか?」と前田日明さんに言われました。
呆れた顔をしてました。「すみません」と謝りました。
「でも、今日ここに来ている80人だって誰一人、知らないと思いますよ」と私は言いました。
「そんなことはないでしょう」と前田さん。
だから、「鈴木ゼミ」が始まって、第1番目に皆に聞きました。
「二宮金次郎が本を読みながら、薪を背負って歩いてますね。あの時、読んでいた本は何でしょう?」
皆、キョトンとしている。誰も分からない。
「ほら、僕の言った通りでしょう。皆、知りませんよ」と前田さんに言いました。〈実は、中国の儒教の古典、『大学』なんです〉と皆に教えてあげました。
私だって前日に知ったばかりです。『大学』は前田さんに以前から、「読め!」と言われていた本なのです。
前田さんには、会うたびに、勉強不足を叱られています。
昔から私はプロレスが好きで、前田ファンでした。
でも、初めて会ったのは15年ほど前です。前田さんが現役で、膝の手術をして病院に入院してた時です。前田さんと親しい人がいて、私を連れて行ってくれたのです。
驚きました。前田さんのベッドの周りは、本ばかりです。うず高く積まれています。
二・二六事件の本、三島由紀夫の本、シュタイナーの本などです。
「鈴木さんは三島由紀夫の本を随分と読んでるんでしょう?」と聞く。
「はい」と答えました。
「じゃ、『第一の性』を持ってますか。古本屋で探してるんですけど、ないんですよ」と言う。
エッ?と思いました。「そんな本、ないでしょう」と言おうと思いました。
全く聞いたことがない。「すみません。それはまだ読んでません」と言った。前田さんはもの凄い読書家だと思いました。
それ以来、意識して探したが見つからない。
よし、じゃ『三島由紀夫全集』(全44巻)を読破してやろう。そうしたら、その『第一の性』とやらも出てくるかもしれない。
それで挑戦したんですよ。『三島全集』に。そして、無事、巡り会いました。三島由紀夫の『第一の性』です。なるほど、こういう本だったのか、と分かりました。
これは、いわは三島の「男性論」です。男はこう生きるべきだ、という本です。多分、ボーヴォワールの『第二の性』を意識し、対抗して書いたのでしょう。
ボーヴォワールは言います。女性は女性として生まれたわけではなく、社会の眼、偏見、それらによって「女性になるのだ」と。
この有名な『第二の性』に対し、三島は『第一の性』を書いたのです。女性と違い、男は生まれながらにして男だ。…といった内容だったと思います。
前田さんは、三島が好きで読んでいるんですね。日本経済新聞に読書についてのコラムを持っていて、書いてました。三島由紀夫と太宰治とシュタイナーが好きだと。
前の2人は分かりますが、シュタイナーが分からない。教育者ですが、神秘主義者でもある。日本にも、シュタイナー教育をやっている学校が沢山ある。
そして、10年ほど前、月刊『ゴング格闘技』で前田さんと対談しました。格闘技雑誌なのに、格闘技の話は一切しない。太宰の話、三島の話ばかりでした。
何故、こうした人々の本を読むようになったのか。
中学の時だといいます。当時、よく〈文武両道〉といわれていた。空手をやってるだけじゃダメだ。武道の師範は皆、厖大な本を読んでいる。
「前田、お前は本を読んでいるか?」と先輩に聞かれた。「はい、坂井三郎の『大空のサムライ』を読んでます」と答えたら、「戦記物ではなく、キチンと本を読まなくてはならない。まず、文学だ」と言う。
前田少年は驚いて、「文学ですか。文学は何を読めばいいんですか?」。「そりゃー、文学と言ったら太宰治だろう」と言われ、本屋で新潮文庫で出ている太宰を全冊買ってきた。
どれから読んだらいいか分からない。とりあえず『晩年』を読んだ。
「白い反物をもらった。夏の地らしい。夏まで生きていようと思った」。その1行を読んで、しびれた。そして、太宰の他の本を次々と読破していった。
『走れメロス』『ヴィョンの妻』…と読み、それから、三島、シュタイナーを読んだといいます。
3年ほど前、会った時です。「鈴木さん四書五経を読みましたか?」と言う。ナニそれ?と思いました。「読んでません」と言いました。
「昔の日本のサムライは中国の古典を読んで、人間、どう生くべきかを学んだんですよ」と言う。
フーン、そうなのか。日本の書じゃなくて、中国の古典を読んでたのか。
そういえば、「寺子屋」で子供が勉強する絵があるが、あそこでも中国の古典を勉強している。それも音読だ。意味が分からなくても、ともかく声を上げて読む。「師のたまわく…」と。
「四書五経」について、家に帰ってから調べてみた。
まず、四書だ。儒教の根本教典とされている『大学』『中庸』『論語』『孟子』だ。
まあ、『論語』『孟子』は少し位は読んでるが、『大学』『中庸』なんて全く読んだことはない。
しかし、昔は、年端もいかない子供たち、たとえば二宮金次郎も、薪を背負いながら『大学』を読んでいたのだ。
「四書五経」の、では「五経」の方だ。儒教の経典のうち最も重要な五種の書で、次の5つだ。
『易経(周易)』、『書経(尚書)』、『詩経』『春秋』『礼記』などだ。漢の武帝の頃につくられたという。
あっ、西宮で前田さんに会ったら、「四書五経、読みましたか?」と又、言われるだろう。
だから、本屋に行って、岩波文庫や講談社学術文庫から探して、買ってきた。
『論語』『孟子』は昔、読んだ。今回、初めて読んだのは『大学』『中庸』『易経』『詩経』などだ。
そして、『大学』を読み始めて、アッと叫んだのだ。宇野哲人が全訳文を書いている。そして宇野精一が「学術文庫への序文」を書いている。
〈このごろはあまり見かけないが、以前は小学校の校庭や玄関先に、必ずといってよいくらい薪を背負い本を読みながら歩いている二宮金次郎の石像が置いてあった。あの二宮金次郎の読んでいる本は何か、ということも、昔の人は大抵知っていたが、今では知る人も少ないのではなかろうか。実はあれこそこの『大学』なのである〉
そうか。私も昔、「昔の人」だったころは知ってたような気がする。でも今は、現代の人だから、忘れたのか。これを読んで、「えっ、初めて知ったよ!」と思ったのだ。
〈あの偉大な二宮尊徳の思想と功業も、その基礎は、この『大学』なのである。『大学』という書物は、今こそ一冊の書物になっているが、元来は五経の一つである『礼記』という大部の書の一篇であって、原文は僅か1753字である。四百字詰の原稿用紙に書けば、四枚半に満たないわけだ。 しかしこの書物は、儒教の政治思想の根幹を極めて要領よくまとめたものである。さればこそ、二宮尊徳はこの書物を熟読玩味することによって、あれだけの仕事をなしとげることができたのである〉
そうだったのか。西宮ゼミ(3月24日)の前日、マガ9学校に行った。池田香代子さんと会ったので、このことを披露した。知らないだろうと思い、偉そうに教えてやろうと思ったのだ。
ところが池田さんは、フランクルの『夜と霧』や、『ソフィーの世界』を翻訳している。大変な勉強家だし、大作家だ。「勿論、知ってますよ」と即座に言われちゃった。
「猪瀬直樹さんも二宮尊徳について本を書いてたわよね」と言う。えっ、そうだっけ。
(東京に帰ってきて、本屋で探して買った。猪瀬直樹さんの『二宮金次郎はなぜ薪を背負っているのか?』(文春文庫)だ。とてもいい本でした)。
「そこで覚えてるんだけど」と池田さんは言う。
〈経済なき道徳は、寝言である。
道徳なき経済は、犯罪である〉
そうか。今は、犯罪ばっかりじゃないか。
それにしても池田さんは凄いね。前に池田さんも西宮に来てもらった。フランクルの『夜と霧』について話を聞いた。今度は、『ソフィーの世界』について話を聞きたい。ちょっと類例がない、「哲学小説」だ。読んだ時の衝撃は忘れられない。
「もう一度、キチンと読みますから、又、お願いします」と言った。ぶ厚い本だし、なかなか、読むのも大変だ。でも、とてつもなく凄い本だ。
「聞きに来る人は、ついて来れなくてもいいんです。2人だけで話をしましょう」と言いました。「ぜひ、ぜひ」と言ってました。
そうだ。3月24日(日)に西宮の「鈴木ゼミ」も、「お客さん無視」だったな。
前田日明さんといえば、新日本プロレスのレスラーで、その後、UWFに移り、さらにリングスを作る。だから、この日、集まった人たちも、そんな話を聞けると思ってたのだろう。
だが、この西宮・鈴木ゼミは、「お客さん」のことを全く考えない。ゲストと2人だけがよければいい、という我が儘なトークだ。
太宰治から始まって、三島、シュタイナー。そして中国の「四書五経」の話。午後2時から始まって、7時半まで。5時間半、前田日明の「中国古典塾」だった。
前田さんだって、こんな体験はないだろう。全国どこに行っても、「新日本プロレスの最高の試合は何ですか」とか、「UWFとリングスの違いは何ですか」といった話しか出ない。
でも、この日は、プロレス、格闘技の話は全くない。前田さんも、ノリノリで、嬉しそうだった。
この日集まった80人の人々も、初めは戸惑ったと思うよ。でも、前田さんの知られざる面を見れてよかった。そう言ってくれた人も大勢おりました。
前田さん、本当にありがとうございました。
そうだ。行く時は、同じ新幹線で行った。前田さんの新幹線が分かったので、同じ新幹線に乗り込んだ。
新大阪には鹿砦社の人が迎えに来てたので、車で西宮へ向かう。
列車の中でも、ホームでも、出たとこでも、すぐ人がたかる。
「おっ、前田さんだ」「でっけー」と言い合っている。身体がでかいし、身長もあるので、遠くからでもすぐに分かる。サングラスや帽子でも、すぐに分かってしまう。だから、変装はしない。
新大阪の改札を出たら、6、7人の青年がドッと来て、サインをねだる。たまたまここにいて、「アッ、前田さんがいる」と思って、サインを頼んだ。
そう思ったら、違うようだ。彼らに聞いたら、朝からずーっと待ってるという。
前田さんの情報はネットなどで押さえている。2時から西宮でトークすることも(公表されてるので)分かる。
じゃ、新大阪で降りて、車で行くんだろう。車に乗る方向の出口で待ってればいいだろう。そう見当をつけて、待ってたのだという。朝早くから、来て、張っていたという。本当にご苦労さんだ。
ということで、西宮の『鈴木ゼミ』の報告は終わりです。前田さん、本当にお疲れさまでした。
7時半に前田さんは車で新大阪へ向かう。私は、まだ打ち合わせがあったので、残って、最後の新幹線で帰りました。
前田さんを送っていった藤井さんから聞いたのですが、新大阪には、又、ファンが待ち受けていたそうです。大変ですね。朝、いた人もいたようです。
皆、大きな色紙を持って、サインしてもらう。又、前田さんの写真が大きく出ている色紙にサインしてもらう。そして、一緒に写真を撮る。それだけで幸せなんでしょう。
新幹線に乗ろうとしたら、「あっ!前田さんじゃないか」と酔っ払いが声をかけてきた。何じゃこりゃ、と思ったら、赤井英和さんだったそうです。
前田さんは、どこに行っても目立つから大変ですね。隠密の行動は出来ないですよ。本当にお疲れさまでした。ありがとうございました。
ところが、話を聞くと、かなり事情は違う。見沢氏の小説やエッセイを読んで、私らは、別の情報を仕込まれていたのだ。では、実態は、そして日常生活は。詳しく聞きました。
それから、平田氏と共に、京橋へ。「右から考える脱原発デモ」が7時からある。それに出るために上京したのだ。だから、その前に対談をした。私も、久しぶりのデモだった。2時間も歩いて、きつかった。それに雨で、そして寒い。セーターを着込んで、ビニール雨ガッパを買い、ホカロンを買い。それでも寒かった。
でも、東電、経産省前では元気に抗議。「脱原発デモはどこに行ったのか」と言われている中、頑張りました。
知り合いの人が卒業式なんです。私の時は、大学紛争で卒業式はなかった。だから、45年ぶりに出たんですよ。校歌をうたったら、ホロリとした。私には愛校心がある。学部長の話を聞きながら、「あっ、これから社会に出るのか」と実感した。大学を卒業し、新聞社に就職が決まっている。がんばろう。でも、自分で自分が分からない。何をやらかすか不安だ。何かやらかして、警察に捕まって、会社をクビになったりするかもしれない。
と、漠然と卒業後の「未来」のことを考えていました。
そしてハッと気がつきました。いかん、いかん。卒業して、もう45年も経つんじゃないかと。終わって、キャンパス内を見て回り、そのあと、銀座で歌舞伎座を見て、食事をしました。
夜、コンビニで『FLASH』(4月9日号)を買いました。〈「恋から」MVP美女がみんなの党から都議選出馬〉と出てたからです。文化放送で台本を書いてた塩村文夏さんが、今度、都議選に出るそうです。「みんなの党」公認で。がんばって下さい。
「4月以降、スケジュールを空けてるんですから、使って下さいよ」とWコロンは直訴していました。私はどうなるんでしょう。「これで、生涯、皆さんに会えないとなると悲しいです」と言ったら、本当にかなしくなってきました。淋しいです。「又、出してもらうこともあるでしょうから」と言われました。3年間、お世話になりました。
今日の「ニュース 本音と建前」は、
〈今あらためて「愛国心」という言葉の意味を考える〉
申し訳ありません。私のために、作ってもらった企画のようで。愛国心について、思いのたけを語りました。
そうだ。この前の「今日の夕刊読み比べ!は、
〈朝鮮総連本部45億円で落札の宗教法人謎多きその素顔〉
池口恵観さんだ。凄いですね。快挙ですよ。拉致問題の解決に命がけで取り組んでいる。そのためにも、経済制裁だけではダメだ!「話し合いのチャンネル」を作らなければ、とやっている。その一環だ。それなのに、「北のために何をやってるんだ」と批判する。口で批判するだけで何もしないんだ。そんな人は。
池口さんは去年4月、訪朝した時に、私も連れて行ってくれた。とても力のある人だ。太いパイプを持ってるし、政界、宗教界にも人脈が多い。がんばってほしい。
それと、驚いたが、ライブドア事件で服役していた堀江貴文さんが、この日の朝、仮釈放。よかった。写真を見てビックリした。獄中で30キロも痩せたという。「獄中ダイエット」の本を書くだろう。私は、「獄入り直前イベント」で会った。ロフトで。あの時、『アエラ』に堀江さんの本を書評して、それを見せたことを覚えていた。宇宙旅行の本だ。とても夢のある本だった。出てきてたので、又、その夢に挑戦するのだろう。
又、ロフトで「出所祝い」のイベントをやるのだろう。
文化放送、このあとは、「編集長は見た!」。
『クーリエ・ジャポン』編集長の富倉由樹夫さんだ。富倉さんもお世話になりました。今月の特集は、
〈「世界と戦う」ための武器を手にしよう〉
武器といっても知的な武器のことだ。たとえば、
〈グーグルの入社面接試験にあなたも挑戦してみよう!〉
寺ちゃん、水野アナ、私もやってみたけど、全く出来なかった。難しいよ。未知の量を素早く推量することが求められる。グーグルで出題されたのは「フェルミ問題」と呼ばれ、どうやって計算するかが重要だという。何度聞いても分からない。グーグルには入れないよ。
次の特集。
〈仕事は「他人の赤ちゃんを産むこと。ウクライナの代理母たちは何を思う」
知らなかったが、インドに次ぐ世界第2位の生殖医療大国であるウクライナでは、最先端の設備を備えた民間クリニックと優秀な専門家が揃い、生殖医療市場が拡大。同国で代理出産を希望する人々の半数は、不妊に悩む欧米人。だがそうした人々や代理母が悪徳仲介業者に騙されて詐欺に遭うという事件も頻発。富倉さんから事情を聞きました。
次の特集は、
〈なぜ日本人はファックスを手放せないのか?〉
世界中では、ファックスはもう時代遅れ。アメリカではスミソニアン博物館がコレクションに加えようとしているくらい。日本だけがファックスを使っている。まるで「日本文化」だ。内閣府によると11年時点で、日本の企業のほぼ100%、家庭の45%がファックスを所有しているという。
これまで生産された数千万台のファックスの90%は日本で作られたものだという。日本は、生産シェアのトップだ。だから、ファックスを使う習慣をやめられないようだ。又、「ハッカーやウイルスが蔓延する世界では、昔ながらのファックスの方が安全と思えるのでは」と言う人も。
ということで、「寺ちゃん」の最終回でした。お疲れさまでした。