あの三井環(たまき)さんが、実刑判決が確定し、収監される。三井さんは元大阪高検公安部長だ。私も何度か対談させてもらった。月刊「創」やロフトプラスワンなどで…。それは、『おかしいぞ!警察検察裁判所』(創出版・1500円)に入っている。
三井さんは2002年、現職の大阪高検公安部長の時に、調活費(調査活動費)と言われる検察の裏金疑惑を内部告発しようとして逆に逮捕されてしまった。「口封じ逮捕」だった。それも、検察庁の調活費の不正流用疑惑告白のためにテレビ番組の取材を受ける予定だった02年4月22日の当日に大阪地検特捜部に逮捕されたのだ。
露骨な「口封じ逮捕」だ。正義の告発を行おうとしたのに、検察側は「いや、彼は金や女の問題がある。悪徳検事だ」とマスコミを使ってキャンペーンを行った。マスコミでも論議が闘われていた。三井さんも裁判で闘った。しかし、2005年2月1日に、懲役1年8ヶ月の実刑判決が出た。三井さんは更に闘う。
数カ月前に三井さんに会った時は、「今度、映画を作ります」と言っていた。映画を通して検察を告発し、自らの無罪を証明しようとするのだ。「頑張って下さい」と励ました。最高裁で争っているし、潔白が証明されるだろうと思っていた。ところが、有罪が確定し、もうすぐ収監されるという。9月10日付の『夕刊フジ』(9月9日発行)に大きく出ていた。「三井元被告収監『壮行会』の“アヤシイ”面々」だって。どんな「アヤシイ」人々かというと、「政商泉井純一郎」、「汚職市長」の渡部完、そして「民族派団体顧問」の私だ。
うん、私も「アヤシイ」な。「反日発言」を繰り返し、民族派団体の名誉を汚している。汚名顧問だ。民族派の面(つら)よごしだ。『夕刊フジ』には、こう書かれている。
〈捜査情報を漏らす見返りに元暴力団員から接待を受けたなどとして、収賄や公務員職権乱用などの罪に問われ、8月27日付で、最高裁で懲役1年8月、追徴金22万2837円の実刑判決が確定した元大阪高検公安部長、三井環元被告(64)=懲戒免職=が8日夜、収監を前に、関西のジャーナリストが主催した「壮行会」に出席。関西事件簿を飾るアヤシイ面々が集結した—。〉
そして、アヤシイ3人の写真が大きく出ている。「鈴木邦男・一水会顧問(右)や前宝塚市長の渡部完氏(左)に囲まれ、上機嫌な三井元被告=8日、大阪市内」と写真説明が出ている。懲戒免職された「悪徳検事」、汚職で逮捕された前宝塚市長。売国発言と奇行で民族派の顰蹙を買っている「反日右翼」。アヤシクも、悪い3人がよく揃ったものだ。
でも、検事も市長も、「冤罪」だと言うし、権力に「ハメられた」と言う。じゃ、反日、売国、汚名の「確信犯」は私だけだ。
そうだ。三井さんは、検察の調活費の不正流用を告発し、テレビで大々的に訴えようとした。その日に逮捕された。「内部告発をするのは許せん」ということだ。内部告発させないために「口封じ逮捕」したのだ。しかし、逮捕の名目には、そんなことは一切出てない。「暴力団と黒い交遊があり、酒を飲まされて捜査情報を漏らした」というのが理由だ。そして、「女問題もある」と発表した。
だから、検察のあり方、「調活費」の不正…といった問題はどこかに飛んで行ってしまった。そして三井さん個人の「酒と女」にだけ話題が集中し、「正義の人」が「悪徳検事」にされてしまった。検察のやり方、手口がうまかったのだ。又、検察のたれ流し発表だけを鵜呑みにして三井さんを攻撃したマスコミもひどい。その直前までは内部告発の「正義の人」として持ち上げていたのに。
はっきり言おう。誰だって「弱み」はあるし、叩けばホコリは出る。だからこそ人間的だといえる。だから、検察のペースに乗せられたマスコミが悪い。だらしがない。検察が「金や女」を出して逮捕した時、こう言ってやればよかったんだ。
「そんな低い次元に話を落とすな。本来の『調活費』、『不正流用』、『検察の腐敗』を問題にしろ!」と。その〈大問題〉は全く論議されずに、三井さんのプライベートなことだけをあげつらっている。
「いや、それだって問題があるんだ」というかもしれない。じゃ、それを調べながら、大問題の「調活費」も調べたらいい。しかし、それはどこかに吹っ飛んだ。やはり「口封じ逮捕」だ。
万が一、三井さんに「金や女」で問題があり、その点では弱かったとしても、そんなことだけでは逮捕はされない。調活費で内部告発しようとしたから、「じゃ、これでやろう」と出されたのだ。内部告発しようと思わなければ、いくら酒を飲もうと、女遊びしようと、誰と酒を飲もうと一切、文句を言われない。今でも出世街道を驀進していただろう。そんな「同僚」が沢山いるのだ。
だから三井さんは、正直なのだ。愚直なのだ。現職を全うし、退職金をもらい、そのあとで、「こんなことがあった」と「調活費」などについて暴露したらよかった。でも、そんなズルイことは考えない。正義感で、直に、行動してしまった。愚直だ。正直だ。そして「脇が甘い」。ズル賢くなれない人なのだ。
それに、暴力団と付き合い、金をもらったのではない。元暴力団組員だ。元だ。こんな人はいくらでもいる。金をもらったわけじゃない。何かの関係で知り合い、酒を飲んだ。そんなことはいくらでもある。その時、たまたま向こうが金を出した。「じゃ、次は私が」なんて言うことは、いくらでもある。それを衝かれただけだ。「おごってもらったんだから、捜査情報を漏らしたに違いない」と。あとは「検察の書いた筋書き」が出来てしまった。かわいそうだ。
三井さんは何度も会ってるがとてもいい人だ。それに、いくらカタイ話をして激論していても、酒が入ると人間が変わる。急に無防備になる。やけに人間的になる。その点は本人も認めていた。だって、「創」で対談した時、私は言った。
「三井さんは内部告発直前に逮捕され、逆に悪徳検事のレッテルを貼られてしまったわけですが、検察にそうやられたということでは脇の甘さもあったわけですよね。人間的に優しいから、酒を飲むとちょっとだらしがなくなるとか、そういうことがあるんじゃないですか」
かなり失礼なことを聞いた。しかし、三井さんは「それは間違いなくあるでしょうね(笑)」と応じた。いやー、いい人だな、と思って、好きになった。
こんないい人だ。だから、私も図に乗って、さらにこんな失礼なことまで聞いちゃった。
「時代が時代ならば遠山の金さんみたいな感じで、人間的な検察官として褒(ほ)められるんでしょう。しかし、逆に責められる立場になるとまずいですね。それと、夜にグデングデンに酔っぱらっている時に元暴力団から女性をあてがわれてホテルに入ったそうですが、本当に何もなかったんですか?」
失礼な質問だ。「遠山の金さん」と褒めて、おだてながら、グサッと相手の痛いところを衝く。根性の悪い奴だ。この鈴木君は。その後の二人の応答は以下だ。
三井何もせずに30分で出てきました。グデングデンに酔っぱらっていますから、とても何かできるような状態じゃないですよ(笑)
鈴木でもよく酔っぱらっていながら、一緒にホテルに入りましたね?
三井それは勢いですよ(笑)
鈴木他の検事さんもホテトル嬢を買ったり風俗に行ったりするんですか」
三井有名な検事長で辞めた者なんて、ほとんどが女の問題ですよ
鈴木本当ですか(笑)
ウーン、凄い対談だ。何という開けっ広げで、人間的なんだろうと思った。でも、家族はキツイだろうなと思った。子供だっているんだろう。「お父さんは悪徳検事だ。女とホテルに入った」なんて聞いたら、「不潔!」といって、家出しちゃうよ。親子の縁を切るよね。普通なら。
ところが、三井さんの娘さんは、父を信じ、付いてきている。実は、この日(9月8日)の「壮行会」の時も、隣りに座っていた。なんせ、大阪の大きなキャバレーで「壮行会」をやったんだ。三井さんの隣りに若く美しい女性が座っていたら、誰だって、店のホステスさんと思う。「この店のナンバーワンでっか?」と皆、聞いていた。主賓の三井さんの隣りだから、ナンバーワンを付けたのだろう。皆、そう思う。「何言ってんでんがな。うちの娘でんがな」と三井さんは必死に説明していた。
この娘さん、若く美しいだけではない。才媛だ。何と弁護士さんなのだ。凄い。三井さんには似ないで美人だ。きっとお母さん似なんだろう。
さて、「壮行会」を報じた『夕刊フジ』に話を戻す。
〈会場となった大阪・ミナミのキャバレーには、元被告の知人ら約45人が集まった。その中には、脱税・汚職事件で逮捕された元石油商の泉井純一郎氏(72)や、前宝塚市長でパチンコ店に絡む汚職事件で逮捕された渡部完氏(50)といった、世間を騒がせた顔もズラリ。
さらに、民族派団体「一水会」顧問の鈴木邦男氏(65)らも駆けつけ、「体に気をつけて」など送り出すと、三井元被告は「励ましていただき、ありがとうございます。出てきましたら、また頑張りますので、よろしく」と殊勝に挨拶したが、その一方で、「事件を作っちゃダメだよな…」と、検察への不満を漏らす一幕もあり、周囲をあきれさせていた〉
そうか、ミナミだったのか。あのキャバレーのあったのは。巨大なキャバレーだ。こんな所、入ったのは初めてだ。よく1950年代から60年代の日活アクション映画に出てくる感じだ。石原裕次郎や小林旭、赤木圭一郎などが出てくる映画だ。
そんな映画の舞台になるのが、こんな巨大なキャバレーだ。それが今もあったとは。驚きだ。ともかく広い。バンドも入っている。昔は、中央にリングを組んで、ボクシングをやったりしたという。
今も、ヤクザ映画などには使われているという。「ミナミの帝王」なんていう映画だろう。1950年代からあるそうな。ホステスさんも、その頃からの人たちだ。150人もいる。この日はその半分が出たとしても、80人位のホステスさんがいたのだ。入るなり、ホステスさんたちに、「キャー!さっきテレビに出とった人やわ!」と言われた。そうなんや。9月8日(月)は大阪ABC朝日放送の「ムーブ!」に出とったんや。夕方4時から6時まで。
終わって帰ろうとしたら、テレビのプロデューサーが、「今日、三井さんの壮行会があるんですよ。6時半から」というので、「じゃ、行きますよ」と二つ返事で駆けつけたわけですわ。
マスコミの人が多かった。それと泉井さん、渡部さんといった、アヤシイ面々。なかなか面白かった。私は、ギリギリまでいて、最終の新幹線で東京に帰ってきました。
それにしても凄いキャバレーだったな。昔はあんな巨大なキャバレーがよくあったんだろう。年代ものだ。建物も古いが、ホステスさんたちも歴史がある。年代ものだ。一緒に行ったプロデューサーは44才だが、「僕より若い人は誰もいませんよ」。そうだろう。1950年代から始めているとしたら、その頃20才として、プラス50か。うーん、偉い。「ここのホステスは孫と犬の話しかしませんよ」と言う人もいた。失礼な。
でも、お孫さんだって大きいのだろう。それに、友達にはお婆ちゃん自慢をしているかもしれない。「うちのお婆ちゃんはミナミのホステスやで。毎晩化粧して着飾って出勤するんやで!」と。偉いし、生涯現役だ。お客の悪徳検事、汚職市長、売国右翼よりもホステスさんの方が、ずっとアヤシイのかもしれない。でも、後期高齢者になっても、色っぽい職場で、元気で働けるなんていいことだ。むしろ、これは国家が保護し、奨励すべきだよ。これこそ、長寿社会日本のお手本ですよ。
「女性は若ければいいって言う人もいますが、それは間違っています。こうした経験を積んだ美しさが分からなければ愛国者ではありません」という人もいた。私は分からん。愛国者じゃないから。
じゃ、終わりだ。三井さん、元気で行ってきて下さい。体に気をつけて。そして、一日も早く帰ってきて下さい。又、三井さんとはじっくり対談したい。
そうだ。三井さんとの対談が載った『おかしいぞ!警察検察裁判所』(創出版・1500円)は実にいい本だ。三井さんとは2本、対談・座談会をやっている。〈第3章〉「公安警察・検察の恐るべき実態」で2本やってる。一つは、対談で、「口封じ逮捕された元大阪高検公安部長が語る公安捜査の内幕」。そしてもう一つは、座談会だ。三井さんの他、黒木昭雄、真田左近、野田敬生、そして私だ。テーマは、「テロ対策名目に強化されつつある公安の実態」だ。実にリアルな話をしてくれた。三井さんは元公安部長なんだ。左右の活動家を逮捕し、勾留する。その責任者だ。
「例えば天皇がどこかに行ったり要人が外国から来るといったような場合、架空の不動産契約書なんかを引っ張り出してきて、危ない人物は事前に逮捕してしまう。結論は釈放だと決まっていても、20日間勾留してしまう。治安を守るためです。私が神戸の公安にいた時は、2年間に10回ほど逮捕・勾留しました」
何でもいいから理由をつけて、危ない人間を〈隔離〉するわけだ。又、運動をさせない、つぶす目的だけで逮捕することもある。全くの言いがかり、別件だ。容疑なんか何でもいい。とても起訴できないようなことでも、どんどん起訴する。なぜか。こう白状する。
「逮捕した過激派を起訴するかどうかですが、証拠が1割あれば検察は起訴してしまうんです。無罪になると分かっていても、起訴してしまう。なぜかといえば裁判には6年くらいかかりますから、一度起訴されてしまえば被告人はその間、活動はできません。それは大きな効果があります」
その他、爆弾事件で、「犬の臭気鑑定」だけで犯人にしてしまい起訴したこともあるという。又、「重信房子はなぜ捕まったか知ってますか?」と言って、内密の捜査打ち明け話をしてくれる。又、「ビラ投函での逮捕」には検察の意図がある、とキワドイ話もしてくれた。それは、ぜひ本を買って読んでほしい。又、「左右の過激派」の取り調べの実態、「落とし」のテクニックなどについても聞いた。
三井さんは「落としの名人」だった。でも新左翼の公安事件では彼らは完黙を通すし、「その意味では彼らは立派です」という。
じゃ、右翼はどうだったのか。
「右翼は簡単で、100%落ちますよ。右翼の歴史から裁判の状況からいろいろ話をしていき、「検察は決して右翼を敵視しているわけではない。むしろ右翼は好きなのだ」というようなことを言えば、すぐに自白します」
じゃ、右翼は、素直なんだ。検察の言うことも信じている。さらに三井さんは言う。
「右翼の連中は略式起訴くらいに済ませると、街宣車が来て「検事、ありがとうございました!」なんて言っている(笑)。その点、左翼過激派連中はほとんど完黙ですね。右翼の場合は大丈夫なんですが、過激派連中を調べる時は主任検事の宿舎は警備がつくこともあります」
ウーン、そうか。左翼を調べる時は覚悟が違うんだ。三井さんは、どうも左翼過激派は敵ながら立派だと感心しているようだ。
ともかく、この対談の載った『おかしいぞ!警察検察裁判所』(創出版)はいい本だ。座談会の中でも三井さんは「検察の内幕」を次々と暴露している。又、この本では、第1章が「被害当事者の証言」、第2章が「公安の暴走」…と、内容の濃い本になっている。読んでみたらいいだろう。