2008/03/03 鈴木邦男

変革運動と「言論の自由」(後編)
〈法政の「言論弾圧事件」を考える〉

はじめに

黒ヘルと白衣の「正装」で支援を訴える法大黒ヘル (左から、矢部史郎氏、塩見孝也氏、当該学生、中川文人氏。 06年6月11日、ロフトプラスワンにて)

 前回は好評でした。法政大学の「言論弾圧事件」から話が始まり、「革命とは何か」「組織運動とは何か」といった話に進みました。元戦旗派の早見慶子さん、元黒ヘルの中川文人さん、そして右翼歴40年の私(鈴木)の座談会です。「左右の運動や組織のことなんてもう十分に分かっている」と思っていた私ですが、話していて教えられることが多く、新たな発見もありました。驚きでした。

 こういう形で、変革運動、言論の自由、組織の問題が内側から深く掘り下げられ、話されたのは、もしかしたら、初めてかもしれません。だからこそ、多くの人々が読んでくれたのだと思います。

 今回は、その続編です。さらに話を発展させて「右翼と左翼の違い」「変革運動はどこへゆくか」といった話もしております。お二人のおかげで、とても興味深い話を聞けました。これは組織運動版の『三酔人経綸問答』(中江兆民)だな、と思いました。貴重な話が聞けました。今回も、テープ起こし、編集は全て中川さんがやってくれました。お疲れ様でした。

右翼、左翼は「いい人」なのか?

鈴木自分が所属している組織は「100%正しい」と思うのは左翼も右翼も同じ。僕は40年、右翼の運動をやってきて、左翼の人たちとも付き合いがあるから、今は「100%正しい組織なんてない」と思っているし、「100%正しくなくてもいいじゃないか」とも思っているけど、若い頃は僕も自分のやっている運動は「100%正しい」と思っていましたね。

中川ほー。

 

鈴木学生時代、「鈴木はダラ幹だ」とか「鈴木にはやる気がない」とか言われてリコールされて失脚したときは、100%自分が否定されたと思って目の前が真っ暗になったからね。おれにはもう行き場がない、地方の大学に入り直して一からはじめようか、なんてことも考えた。今考えるとアホらしい話だけど、当時は真剣に考えたからね。

中川へー。

鈴木若い頃は、僕も純真だったんですよ。

中川なるほど。純真じゃないと「100%正しい」なんて思えませんもんね。

鈴木うん。共産党に入る人も新左翼になる人も右翼になる人も、みんな純真なんだよ。だって、共産党にしても、朝早く起きて、お金ももらえないのに新聞を配ったりするんだから。こういう人は貴重だよ。大事にしないと。そういう「滅私奉公」の気持ちのある人たちが戦後の社会を支えてきたんじゃないのかな。

中川そこまで言いますか。

鈴木うん。だって、自民党とか民主党に入るのは国会議員になりたいからでしょう。
 でも、共産党とか新左翼とか右翼に入るのはそうじゃないからね。筆坂秀世さんは「共産党には議員がたくさんいるけど、議員になることが目当てで共産党に入る人はいない」と言っていたけど、僕は筆坂さんの話を聞いて「共産党に入る人は、みんないい人なんだな」と思いましたよ。

中川あのー、それは「いい人」なんじゃなくて「そういうタイプの人」と思ったほうがいいんじゃないでしょうか。
 たしかに、お金ももらえないのに新聞を配るのはえらいと思いますけど、でも、共産党の「しんぶん赤旗」はともかく、新左翼の新聞とかビラには「○○を殲滅せよ」とか、「○○を血の海に沈めた」とか書いてあるわけですよね。「いい人」はそういう新聞やビラを配ったりしないんじゃないかと思うんですけど。

鈴木そっか。純真だからって「いい人」とは限らないんだ。

中川法政の黒ヘルだって、そりゃ、みんな純真で「いいやつ」でしたよ。これは断言できます。
 だけど、みんな「あの野郎はぶっ殺さなければならない」とか、「こんな大学はぶっ壊さなければならない」とか、「ハルマゲドンを起こさなければならない」とか、そんなことを純真に考えていたわけですから、「いい人」ってわけではなかったと思います。
 僕自身、自分のことを「いい人」だと思ったことなんてないし。「なんてバカな人間なんだ」とは何度も思いましたけど。早見さん、どうでしょう?

 

早見ちょっと話がずれるかもしれないけど、ビラの話でいうとね、組織には「逆説の論理」っていうのがあってね、変なことが書いてあるビラは、やっぱりみんな配りたくないんだけど、上の人間が「本当はおれもこの内容では大衆の支持が得られないと思う。だからこそ配るんだ。大衆だっておかしいと思うだろ。それで討論すればいい。そのことで大衆を巻き込んだ議論に発展していくだろ。だから内容が日常性からズレているからこそ、配らなければならない」というと下の人間は張り切って配るんだよね。そのとき、上の人間が「これは正義だ、配れ」とか「配るのが当たり前だ」とか何の疑問もなく言えば、みんな引いちゃうんだけど。

鈴木へー。

中川ほー。

早見こういうことって組織の中にはたくさんあるのよ。本の中で活動家が番号で呼ばれるようになったって話を書いたよね。

鈴木あった、あった。

早見一人ひとりが番号で呼ばれるようになって、缶コーヒーを買いに行くときも「3番、缶コーヒーを買ってきます」と言って、「長袖の上着を着ているか」とか、「武器はもっているか」っていちいち点検を受けるんだけど、あれ、バカバカしいでしょう?

鈴木バカバカしい。

中川番号で呼ばれるなんて監獄と同じだもんね。僕はやだな。

鈴木自分たちは番号で呼ばれていて、それで「国民総背番号制反対」とか言ってもねえ。

中川なんか、説得力ないですよね。

早見それはみんな同じで、やっぱりイヤなわけですよ。みんな自由を求めて左翼になったわけだから。だけど、そういうときは「自由を求めて左翼をやるかぎりは、こういう不自由なことも必要なんだ」って意思統一をするの。自由のための不自由なんだと。そうすると、自由を求める気持ちの強い人ほど積極的にやったりするのよね。

鈴木ほー。

中川すばらしい人間分析ですね。勉強になります。

鈴木そっか。「国民総背番号制を阻止するためなら、自分は番号になってもいい」「自由な社会をつくるためなら、今は不自由でもしょうがない」って納得していくんだ。すごいね。

早見これは洗脳みたいなものなんだけど、そこまでやるのはおかしいと思いながらも、あえてそれをやることで自分は強くなれるんだっていう論理があるだよね。そうやってイヤなことも正しいと思って行動するようになるのよ。

鈴木他の党派も番号なの?

早見番号は戦旗だけだったかもしれないけど、中核派は集団出勤してたはずよ。戦旗派も中核派も「我々はここまでやりきっているんだ」ってすごいエリート意識をもっていた。だからこそ、面倒なことができたんだと思う。

中川そういう高揚感っていうのはわかりますね。

早見「左翼はいい人」かどうかって話だけど、人の気持ちを第一に考えて、自分はいつも裏方に回るっていう「いい人」もいないことはないけど、そういう人が組織の中で生き残っていくのは難しいという現実があるよね。意見を言ったとき、誰からもムシされる現実にぶつかってしまう。生き残っていくのは、サラリーマン化して大衆の気持ちなんて考えず、上の意見だけ聞く人とか、荒さんのように人に何を言われても動じない人とか、そういうタイプが多い。

鈴木なんか、やだな。

 

右翼、左翼になる動機は?

中川早見さんは、いい人だから左翼になったの? そういう自覚ってあります? 僕は全然なかったな。僕はなりゆきで黒ヘルになって、なりゆきで執行部にもなったんだけど、そのとき考えたことといえば、「あいつもがんばってるから、しょうがない」とか、「今さら引くのはみっともない」とか、そんなことだけで、「社会のために役立とう」なんて全然思わなかったけど。

早見私は薬学部でしょう。薬学部だとみんな「医者と結婚したい」とか、「いい企業に入りたい」という話ばっかりしてるんで、そういうエリート意識への反発があったな。

鈴木薬学部って、お医者さんと知り合いになりたいって動機で入ってくる人がいるの?

早見多いですよ。

中川そうなんだ。薬学部って出会い系の学部なんだ。

鈴木いいね。右翼なんて何の出会いもないですよ。

中川まあまあ。

早見でね、ある薬学部の教授は「君たちは優秀なんだから、バカな理学部とは一緒になるな」とか平気で言うんですよ。

鈴木へー。

早見教授からしてそうだから、薬学部の学生って「私たちは優秀なんだ。私たちはエリートなんだ」って意識をもつようになるんだよね。私は「医療は人助け」ってイメージをもっていたんだけど現実は全然違って、そういう意識よりもエリート意識のほうが強い。だから、人が倒れているのを見ても素通りしちゃう人もかなりいるわよ。

鈴木ひどいね。

早見ひどいんだけど、そういうエリート意識は私にもあって、その自分の傲慢な意識をつぶしたいって気持ちがあったな。

鈴木それが早見さんが新左翼になった理由?

早見うん、理由の一つではあるよ。「そういう意識を持った人たちと私は違う。自分の中のエリート意識と決別しよう」ってことが表現したかったんだと思う。実際は個人のエリート意識を潰して集団のエリート意識にスリ変えられているけどね。

鈴木エリート意識って運動の原動力になるんだね。

中川戦前戦中の共産党員を支えていたのはエリート意識だと思いますよ。だって、当時の大学進学率は4%とか5%ですから。あの人たちは本当にエリートだったんですよ。

鈴木え、僕の世代は?

中川今がだいたい50%で、早見さんとか僕の80年代が30%台。鈴木さんの世代は24、5%です。ま、いずれにしてもエリートってほどのものじゃないですよね。

鈴木全然エリートじゃなかったよ。ただの大衆だったよ。

中川鈴木さんの親御さんの世代は、戦前戦中の、本当のエリート学生を見ているから、「学生ってすごいのよ。エリートなのよ。大学に行けば将来が約束されるのよ」って鈴木さんたちに吹き込んだんですよ。
 で、鈴木さんたちもその気になって大学に行くんだけど、実際に入ってみると全然エリートじゃない。それで、「マスプロ教育だ」と騒ぎ出したんですよ。

鈴木そっか。エリートのつもりだったのにそうじゃなかったんで、全共闘は怒ったんだ。なんだ、エリートじゃないじゃないか。ちくしょう。革命やってエリートになってやるって。

中川それが正味のところだと思いますよ。

鈴木たしかにそうだよな。僕も「自分はエリートだ」なんて全然思わなかったもんな。おれたちは恵まれていて申し訳ないとか、労働者階級に申し訳ないとも思わなかった。

中川東大全共闘はなんだかんだ言ってもエリートだから自己否定したけど、日大とか法政とかで、そんなこと言う人はいなかったと思いますよ。

早見話を戻すと、私の場合は「いい人」だから左翼になったんじゃなくて、「いい人」になりたくて左翼になったって言ったほうが正確だと思う。

中川それ、わかるな。法大の運動って苛酷で、イヤなことがいっぱいあるんですけど、それでも僕が続けたのは、「責任感のある人間になりたい」とか、「ちゃんと約束を守れる人間になりたい」とか、そういう気持ちがあったからだと思いますね。逆に言うと、それまでは無責任で、いい加減な人間だったわけですよ。まあ、今もそう変わらないけど。
 右翼の人だって、そうじゃないんですか。「国のために何かをしたい」っていうのもあるかもしれないけど、それ以上に「男になりたい」とか、「一人前の男として見られたい」とか、「人からバカにされたくない」とか、そういう動機で右翼になる人のほうが多いんじゃないですか。

鈴木うん、そうだ。

中川社会運動って、もちろん社会を変えていくため、社会の矛盾を正すためにやるわけですけど、やっている人間にとっては人生修行のような意味合いのほうが強いんじゃないのかな。
 昔は行者さんっていたじゃないですか。僕は、活動家って現代の行者さんなんだと思っていますよ。で、社会にはつねに一定そういうタイプの人がいる。いつの時代にも、どこの国にも。だから、いい人とか悪い人とか、そういう問題ではないと思うんですよね。

 

右翼と左翼の違いとは?

鈴木左翼になる人も右翼になる人も純真で、「いい人になりたい」とか「一人前の男になりたい」と思って活動家になる。これは同じ。じゃあ、右翼と左翼の違いってなんだろう。

中川その問題については考えたことがあります。

鈴木おっ。

中川右翼の人と左翼の人には「友達がいない」という大きな共通点があるわけですが。

鈴木えっ。

早見……。

中川すみません。やめましょう、この話は。

鈴木いや、いい。続けて。

中川そうですか。殴らないでくださいよ。

早見私はセクトをやめたら友達、増えたよ。

中川僕もそう。運動をやめたら友達がいなくなって寂しいんじゃないかと思っていたんだけど、全然そんなことなかった。友達は増えたね。同窓会にも呼ばれるようになったし。

鈴木……。

中川で、右翼の人と左翼の人には「友達がいない」という重大な、消しがたい共通点があって、これが普通の人と右翼、左翼の大きな違いなわけですが、右翼と左翼では「友達ができない理由」が違うな、と私は見ています。

鈴木うん、どういうこと?

中川右翼の人は自分に問題があるのに、それと向き合わないで「今の社会には問題がある」と言うから友達ができない。左翼の人は自分に問題があるのに、それをあたかも「問題意識」があるかのように見せかけて「社会には問題がある」と語るから友達ができない。鈴木さんはよく「左翼は頭がいい」と言いますけど、そう見えるのは左翼がややこしく振る舞うからであって、別に頭がいいわけではないと僕は思っています。

鈴木ほー。

早見ふーん。

中川社会は問題のある人には寛大なんですよ。誰だって多かれ少なかれ問題はあるんだから。
 でも、右翼、左翼の人はそうは思わない。自分に問題があることを認めようとしない。だから、友達ができない。ただ、右翼と左翼では問題の隠し方が違う。いずれにしても、イデオロギーの問題よりも性格的な問題のほうが大きいんじゃないかと僕は思うんですが、違いますかね。

鈴木ほー。

早見ふーん。

中川違うかな。

鈴木性格の問題というのはたしかにある。右翼の思想家に葦津珍彦(あしず・うずひこ)って人がいて、その人が本に書いている。一般の社会の人は7割とか8割とかいいところがあって、残りの2、3割、悪いところがある。
 ところが、右翼になる人は8割くらいどうしようもなくて、だらしがなくて、2割くらいしかいいところがない。だけど、その2割がキラリと光っている。だから、そこを使えばいいんだって書いている。僕はどこが光っているのかな、と思ったけど。でも、無理にでもいいところを見つけて使う。極端に言ったら、いるだけでいい、いるだけでも頭数にはなるんだからいいと思うのが右翼ですね。
 その点、左翼は人間に対する期待度が高いんじゃないかと思う。連合赤軍事件のときにあったけど、化粧をしているとか、指輪をしているってだけで殺しちゃうなんて、もったいないよ。右翼はそんなことしないよ。殺すくらいなら飛び込ませるよ。「体をかける場所」を作ってやるよ。

 

早見人間に対する期待度が高いっていうのは、そうなんですよ。マルクス主義は人間理想化の思想だから。「共産主義者の暴力はいいことにしか向かわない」と人間を信用してたと思う。

鈴木ほー。

 

「性善説」は左翼の風土病?

中川「マルクス主義は人間理想化の思想である」というのは、僕もまさしくその通りだと思います。僕は法政大学を中退してレニングラード大学に行って、今や幻の帝国であるソビエト社会主義共和国連邦で生活していたわけですけど、あの国は「性善説」の徹底した国でした。

鈴木え、そうなの? 性悪説じゃないの?

中川それが性善説なんですよ。細かいところから言いますと、たとえば、電車の改札。ソ連では定期をもっている人間はポケットに手をつっこんだまま改札を素通りするんですよ。誰もポケットから定期を出したりしない。出したとしてもそれを確認する係員がいない。
 で、レニングラード大学のクラスメートに「日本ではこうだけど、ソ連ではなんでこうなんだ?」って聞いたら、「ソ連の鉄道は『ソ連にはキセルをするような悪いやつはいない』という性善説の上に成り立っているからだ」と言うんですね。

鈴木いいじゃん、それ。

中川僕もはじめはそう思いました。なんて明るい社会なんだと。だけど、実態はその逆で、なんらかの理由でキセルがバレると大変なことになるんです。キセルをする人は単に金が惜しくてキセルをするわけですが、「ソ連には金が惜しいなんて理由でキセルをするような悪いやつはいない」という前提があるから、どんなに「金が惜しかった」と言っても認めてもらえない。
 で、「こいつは国家に敵意をもっている」となって、「こいつは帝国主義のスパイだ」とエスカレートして、最後は「収容所に入れておけ」となっちゃうんですよ。地下鉄でキセルをしただけで。

鈴木へー。

中川ソ連では一事が万事こんな調子なんです。ソ連が収容所国家になったのはスターリンの猜疑心が強かったからではないんです。むしろその逆で、性善説が貫かれているからなんです。人間への希望と信頼にあふれた性善説が、絶望と不信に満ちたこの世の地獄を生んだんです。
 ほら、ことわざにもあるじゃないですか。「地獄への道は善意によって敷き詰められている」って。

鈴木性善説って恐ろしいね。性悪説よりも怖いね。

中川左翼って何かと「自己批判」を求めますけど、あの背景にあるのも性善説だと思いますよ。自己批判を重ねれば重ねるほど立派な人間になる、という前提があるからこそ、自己批判を求めるんですよ。
 普通は「ごめんなさい」と謝ればすむ問題でも、徹底的な自己批判を求めるのは性善説があるから。はたからみると単なる吊し上げで、今風にいうとパワーハラスメントなんだけど、あれ、やってる人間は親切でやっているんですよ。立派な革命家にしてやろう、立派な共産主義者にしてやろうという同志愛でやっているんですよね。

鈴木ダメなやつは追い出せばいいのに。そっちの方が早い。

中川ダメな人間はいない。正しいマルクス・レーニン主義を身につければみんな立派な共産主義者になるって前提があるから追い出せないんですよ。で、勝手に期待をしておいて、期待通りじゃないと「裏切られた。あいつは帝国主義のスパイだった。ずっと騙されていた」と言って殺しちゃう。期待が高いから、絶望も深いんですね。

鈴木何も殺すことないじゃない。殴って追い出せばいい。

中川いや、悪魔の帝国主義に魂を汚されるよりも殺されたほうがいいだろう、帝国主義の手先として生きるよりも革命のために死んだほうがこいつも幸せだろうと考えるんですよ。だから、粛清も親切なんです。

鈴木そんなの大きなお世話だよ。

中川左翼の運動は、すべての人民を解放してやろうって大きなお世話からはじまるんですから、そういうものなんです。なんなら鈴木さんの魂も救ってあげましょうか。イヒヒー。

鈴木うわー。

早見プッ。

中川僕がソ連にいたのはゴルバチョフの時代で、当時、ゴルビーは盛んに「人間の顔をした社会主義」ということを言っていました。はじめ、僕はゴルビーが何でそんなことを言うのかわからなかったんですけど、ソ連で暮らしてみてよくわかりました。本当にあの国は人間の顔をしていなかった。よくもまあ、あんな非人間的な体制が70年ももったと思いますよ。ほんと。

連合赤軍についてのロフトの討論会

鈴木そうか。左翼全体が性善説なんだ。みんな立派な革命家になれるんだって性善説があるから、自己批判したり、総括したりするんだ。左翼にはそういう風土があるんだね。

中川風土病の一種かもしれませんね。

 

鈴木和光晴生さんの本『赤い春』(集英社インターナショナル)に、連合赤軍のような総括は、多かれ少なかれ、日本赤軍も、よど号で北朝鮮にいった人たちもやっていたって書いてあったんだけど、そういう総括をやっていたのは赤軍系だけじゃないんだね。左翼全体なんだ。ただ、連赤のように殺し合いにはならなかったけど。

早見戦旗もね、何かと総括をやっていましたよ。たとえば、ビラを配るでしょう。で、うまく捌けないと、それをめぐって総括するとか。

鈴木それ、総括するほどの問題なの?

早見ビラはまだ運動に関係しているからいいんだけど、山登りでも総括を求められるんですよね。

 

鈴木何、それ?

早見私は女でしょ。だから男より体力がないんですよ。だから、「体力がないから山に登るのは辛いです。そのかわりオルグしますから」って言ったんですよ。そうしたら、「それは自己肯定だ。ちゃんと総括して、自己否定して新しい自分をつくれ」って言われた。

鈴木だから、何、それ?

早見それが戦旗の人間論なんですよ。「自己否定をして、新しい自己をつくらなければならない」っていう荒さんの人間論があるんですよ。

中川まあ、体力をつけようっていうのはいいことですね。

鈴木うん。いい理論じゃん。

早見でもね、体力の差って絶対にあるでしょう。だけど、それを言うと自己肯定になっちゃうから、体力のない人も体力のある人と同じリュック背負って同じ距離を同じペースで無理して登るんですよ。で、滑落したり、いろんな悲劇が起きるわけです。

鈴木……。

中川その悲劇はマルクスのせいじゃないと思うな。レーニンも関係ないと思う。

早見相互批判、相互止揚っていうのもあってね。

鈴木何、それ。お互いに殴り合うの?

早見お互いに批判し合うんですよ。たとえば、文章を書くのが嫌いな人がいると、他のメンバーが文章を書かないのはよくないって、その人を批判するんですよ。

鈴木なんで、そんなことするの?

早見自分だけで総括すると、結局、みんな自分のことは庇うから、相互に批判し合う関係をつくれっていう党の指令があったからですよ。

中川なんか、隣組って感じですね。

早見これ、北朝鮮でやっていたんですよ。

鈴木戦前の日本でもやってたよ。

早見戦旗は北朝鮮に対しては批判的だったんだけど、これはいいんじゃないのかって取り入れたんです。でも、これをやると、みんな他人の欠点ばかり見るようになるんですよね。

鈴木早見さんも人の欠点を見つけて批判してたの?

早見もちろん。私も言うし、私も言われるし。

鈴木何を言われたの?

早見私は、たとえば、服装が女の子っぽいとか。垂れ流し主義だとか。

鈴木何、それ。どういう主義? 何を垂れ流してたの?

早見中間管理職になると上から言われたことを下に下ろすでしょう。それ。

中川ちょっと待って。中間管理職が上に刃向かうと、やっぱり反党行為だ、分裂主義だって批判されるんでしょう。

早見もちろん。

中川でも、そのまま下に伝えても垂れ流し主義って批判されるんだ。

鈴木どっちにしろ、ダメじゃん。

中川中間管理職ってたいへんだ。

早見他にもあってね、たとえば、集会に動員をいっぱい連れてくるでしょう。そうするとね、動員拡大主義だって批判されるのよ。

鈴木えっ、なんで批判されるの。いいことじゃん。がんばって人を集めたんだから。

早見動員拡大に熱中して、勉学をおろそかにしているって批判をされるのよ。もちろん、動員が少ないとそれはそれで批判されるんだけど。

鈴木早見さん自身はどういう批判をしたの? 他人に対して?

早見私は現場にいたからマイルドにやってたんだけど。共同生活しているから、そうきついことは言えないでしょう。

中川そりゃ、そんなことやっていたら人間関係がギスギスになるよ。

早見でも、私もいろいろ批判したな。党の指令は絶対だから。「どこどこでオルグしよう」って私が方針を出したら、「そんなところにいってもムダだ」って言う人がいたんだけど、そのときは「それは被害者意識だ」って批判したと思う。

中川質問です。荒さんは誰と相互批判してたの?

早見してないわよ。

鈴木ずるいよ、それは。党首なんだから、一番えらいんだから、一人で5人を相手にするとかしないと。

中川ハンディキャップマッチですね。

早見これも組織論でね。運動が沈滞すると党の方針が悪いんじゃないかと思う人も出てくるでしょう。それで、党としては批判が自分たちに向かってくるとまずいから、相互に批判し合うようにしたのよ。
 そうすれば、自分らが未熟だからって結論にもっていけるから。相互批判、相互止揚はそういう計算された組織論から出てきたものだから、荒さんは批判されなくていいんですよ。

鈴木はー、人民管理の知恵なんだ。生かさず、殺さず。なんか、豊臣秀吉みたいだね。 戦旗派は僕のことも呼んでくれたし、路線も変えて進んでいるけど、その戦旗派でもそんなことをやっていたんだ。他の党派はどうなんだろう。

早見革マル派には、己を空しくしろっていうのがあるよね。個人じゃなくて全体なんだ、自分がどんな目に遭おうが組織が守られればいいんだ、って考え方がある。そういう意味では戦旗より徹底していると思う。

鈴木なんか、サバの大群みたいですね。大きな魚に少しぐらい食われてもいい。大部分は残る。滅私奉公だね。「己を空しく」なんて、右翼だってできない。

中川早見さんは貴重な経験をされましたね。こういうのは実際に体験してみないとわからないよ。貴重な経験だ。早見さんの体験は人民の財産だ。

 

変革運動はどこへ向かうのか?

「I LOVE 過激派」 早見慶子著、彩流社刊。定価1800円+税

鈴木昨日、ロフトで塩見さんたちと連合赤軍事件の話をしたんだけど、相変わらずなんだよね。
 連合赤軍事件は「総括」を巡って殺し合いをしたわけでしょう。それなのに、その後もその総括を巡ってずっとケンカをしているんだよね。おまえは総括ができてない、とか、おまえの総括は不十分だ、とか。あれじゃあ、それだけで一生終わっちゃうと思うんだけど、そんなんでいいのかな。
 僕は、総括なんかもうどうでもいいだろう。自分で反省し、あとは、新しいのをつくればいいだろうと思うんだけど。

中川左翼のおじさん同士で悪口言い合ってもね。はたから見れば、同じ町内の1丁目と2丁目で揉めてるだけでしょう。本当に革命をやる気があるなら町の外に出ないと。少なくとも、町内の揉め事でしかないんだって自覚はもたないと。
 そうじゃないと、町の外の人たちからは相手にされませんよ。

早見ロフトに出てくる人はまだいいと思う。党派をしょっていると、それもできないから。

鈴木やっぱりダメなんだ。

早見党に所属していると、党で確認したことしか言えないから、出てもトークにならないと思う。

中川「これは個人的な見解だけど」って前置きして言うのもダメなの?

早見前置きしても、結果的に党の見解と違ったら問題になるからね。集会でも、本当はみんな一人ひとり意見が違うんだから全会一致なんてありえないんだけど、党派には無理にでも一致する、全体で確認するって習慣があるでしょう。そういうのにみんな慣れちゃっているから、個人的な見解も出てこないと思う。

鈴木それじゃあ、ダメだよ。ロボットの集団じゃないか。

早見うん、私は、だから縮小してるんだと思う。

鈴木人民を組織したいんなら、人民の前に出てこないと。

中川人民に明かせない秘密があるんですかね。

鈴木多少は秘密もあるだろうけど、秘密をもっているように見せないといけないっていうのもあるんじゃないのかな。付き合っていて、そう思うときもあるね。なんか、へんだな、と。まあ、僕は割り切って付き合っているけど。

早見一人ひとりがもう少し自分でものを考える自立した組織だったらもう少し違うと思うけど、歴史のある組織だと、変えるのは難しいと思う。

鈴木みんな、どんどん出てくればいいのにな。連合赤軍事件でいうと、はじめは40人で山に入ったんだよね。で、半分近くが殺された。でも、その前に逃げた人はいる。仲間殺しがはじまる前に。今から思えば、逃げた人たちのほうが正しいわけだけど、その人たち、出てこないよね。「ほら、おれが正しかっただろう」って出てくればいいのに。
 やっぱり、「自分は逃げた」って負い目があるのかね。

中川あるんじゃないですか。逃げないで山に残って、仲間殺しを止めればよかったと思っているんじゃないですか。

鈴木そういう負い目や疚(やま)しさがあっても出てきたほうがいいと思う。直前までのことを知っているんだから。ちゃんと話したほうが人民の利益になると思う。

中川その点、早見さんは立派ですね。人前で、身をもって経験したことを語ってくれるんだから。早見さんの体験は人民の利益になってますよ。

鈴木今日はいろいろ運動の現状や内情について話したけど、左右の運動、変革運動はこれからどうなると思いますか。雨宮処凛さんの運動なんかに取って代わられるのかな。

早見党派は高齢化が進んでいくだけだと思うけど、プレカリアートの運動にも限界はあると思う。格差はこれからどんどん広がっていくと思うけど、そうなったら体制を批判しているだけではダメだと思う。
 政府は何もしてくれないし、期待できない。だから自活できるように、自分たちで何人かを収容できる施設をつくって養っていくとか、農業をして、食料を確保するとかいうことが求められると思う。
 体制を批判するのは簡単だけど、自分たちでネットワークをつくって、それを支えていくっていうのはパワーがいるから大変でしょ。年月をかけて培っていかないとできないと思うけど、そういう方向でいかないと生活ができない。
 運動も大事だけど、同時に人に仕事を手配したり、そういうこともやっていかないとならないと思う。

鈴木そうだね。「家賃をタダにしろ」とか面白いとは思うけど、そう言ったからといって、そうはならないもんな。

早見運動を広げるには組織が必要だけど、従来型の党派ではダメだと思う。外山恒一さんとか矢部史郎さんとか、そういう若手の人たちがネットワークを作っていったらいいんじゃないかと私は思う。

鈴木若い人たちのネットワークで左翼は復興するかな?

中川どうなんでしょうね。法大の黒ヘルの信条は「実力闘争をともなうラディカリズムと見返りを求めない愛」ですから、僕は、右とか左とかそういうのはあんまり気にしてないんですよね。右左の問題よりも「ラディカルかどうか、愛があるのかどうか」という問題のほうが重要なんで。
 実際、僕が大学にいた頃にはプロ革派という赤軍派の末裔みたいな人たちもいたし、東アジア反日武装戦線の支援者もたくさんいたし、毎年、憂国忌に参加している右翼もいたし、ナチスのコスプレ愛好家みないなのもいたりで、極左から極右まで揃っていましたから、右だ左だでいちいち議論をしていたら何もできなかった。
 そういう環境にいたからかもしれませんけど、僕は国家を右に向けるとか、左に向けるとか、そういう運動には昔からほとんど関心がありません。国家を正しい方向に向かせて、それでもって幸せになろうっていう考え方にはどうしてもリアリティが感じられない。そういう間接的な運動ではなくて、もっと直接的なことにエネルギーを使ったほうがいいと思うんですよね。
 法大黒ヘル出身の松本哉氏らは「自分たちの街を自分たちでつくるんだー」って運動を高円寺でやっていますけど、ああいう、やったことがそのまま形になる運動のほうがやっていて楽しいだろうし、体制にとっても脅威だと思う。
 外山恒一氏は「中央政府なんて相手にしないで九州に縄張りをつくるんだー」って運動をやっていますけど、新左翼の言っている「革命」よりも、外山氏の言っている「革命」のほうがリアリティがあると思う。だって、国会で過半数をとろうなんて考えると気が遠くなるけど、人口1万人くらいの市に1000人くらいで拠点をつくって、地場産業を興して、市長や議会もとるっていうなら不可能じゃないでしょう。
 法大市民監視団の矢部史郎団長は「蛮族の結集」を呼びかけていますね。「蛮族の魂で国家文明を根底から粉砕するんだー」と。あれもスケールがでかくていい。いい夢が見られそう。
 国家主義型の左翼は、早見さんの言うとおり高齢化が進んでいくだけで、どんどん存在理由を失っていくと思いますけど、こういう新しい動きもありますから、全体的には盛り上がっていくんじゃないんですかね。

早見生活に根ざした運動って重要だよね。これからは世の中をよくしようって運動よりも、みんなで食えるようにしようって運動のほうが必要だと思う。そこを考えないで理念ばっかり先走っちゃうと、結局、何も生まれないと思う。

鈴木みんないろいろ考えているんだね。新しい動きもいろいろ出てきている。右翼も考えないとね。今日は楽しかった。とても勉強になった。組織論、運動論でこれだけ深い話ができたなんて画期的だと思う。また、やりましょう。

早見私も楽しかった。

中川私の母校のためにこのような場を設けてくださいまして、ありがとうございました。

 

 

「地獄誕生の物語」 中川文人著、以文社刊。定価1800円+税
【だいありー】
3/15からロードショー公開です
  1. 2月25日(月)原稿が遅れているので必死で書いた。今日、〆切のものがいくつかあって、早朝起き出して、一日中、机に向かっていた。頭がボーッとした。夜、新聞を見たら、「捕まったドロボー」の話が出ていた。「犬の散歩」や「ジョギング」をしながら、〈下見〉するんだそうな。
     そうか、それなら怪しまれない。私も、今はやりの「疑似体験」をしてみようと、夜中、ジョギングをした。寒いのでコートを着て、フードを頭かりかぶり、タオルで覆面をして走っていたら、お巡りさんに止められた。顏を見て、「あっ、鈴木さん!」と言われた。まさか、「ドロボーの下見です」とは言えないので、「来年の東京マラソンに出るんで練習してるんです」と言ったら、「もう練習してるんですか。ご苦労さんです」と言って釈放された。よかった。
  2. 2月26日(火)原稿のことで分かんないことがあったので、いろんな人に会って聞いた。その後、図書館に調べに行った。
  3. 2月27日(水)午後2時、「新文化」の取材。「言論の力について」。取材する記者は法政で中川文人さんの同志(黒ヘル)だったという。だから、いい人だ。新左翼もアナーキストも皆、がんばってほしい。そういう人々を育てるための専門学校を作るべきだ。その記者は高校の時は、先生の影響で、右翼だったそうな。右翼から黒ヘルに〈進化〉したという。偉い、偉い。
  4. 2月28日(木)昼、取材。打ち合わせ。午後3時から河合塾コスモの授業。今期は今日が最後だ。
  5. 2月29日(金)昼、取材。夜、新聞記者と会う。元楯の会の伊藤邦典君も一緒。秋田から上京したのだ。邦典君とは小学校の時からの知り合い。「邦」の付く人は皆、いい人だ。
     私が生長の家の学生道場へ入ったら、後を追っかけて入ってきた。「楯の会」初代学生長の持丸博氏が、「誰か入る人いないかな?」と道場に来たので、「彼がいいよ」と推薦した。邦典君は神奈川大学で、古賀、小賀両君を「楯の会」にオルグした。そして三島事件が起こった。
  6. 3月1日(土)午後6時半から、渋谷の伊藤塾で私の講演。『憲法改正と愛国心問題」。沢山の人が集まり、緊張した。終わって伊藤真塾長らと食事をした。最近の司法の情況についていろいろ教えてもらった。詳しくは次回でも書こう。
【お知らせ】
3/14まで。紀伊国屋で、〈日本主義〉ブックフェア
  1. 驚きましたね。新宿の紀伊国屋本店2階で、何と、「〈日本主義〉ブックフェア」が開催されています。3月14日まで。ついつい買い込んでしまいました。貴重な本、珍しい本ばかりです。これは行かなきゃ後悔します。北一輝、大川周明、平泉澄、田中卓はもとより、「蓑田胸喜全集」なんていうレア本もあります。木村三浩氏の本もあります。私の本も少し。
  2. 3月8日(土)14時から「監視社会を超えてPart2」。飯田橋の「東京しごとセンター」。斎藤貴男さんの講演など。私も参加します。
  3. 3月15日(土)よりテアトル新宿他で若松孝二監督の『実録・連合赤軍』が上映されます。これは文句なく凄い映画です。これを見た後で、中川、早見氏と三人で又、放し合ってもいいな。連赤事件については語り尽くされてると思ったが、この三人なら又、新しい発見、解釈が出るだろう。
  4. 3月17日(月)7時、一水会フォーラム。講師は宮本雅史氏(産経新聞社会部編集委員)。「戦後60年余、日本人が忘れてきたもの=特攻精神にみる自己犠牲の精神=」
  5. 3月21日(金)木村三浩氏の出版記念会。
  6. 3月24日(月)7:30 阿佐ヶ谷ロフト。康芳夫さんが映画「家畜人ヤプー」を作るそうです。それを記念してのトークです。「暗黒プロデューサー・康芳夫の世界」です。康さんの他、高取英さん(月蝕歌劇団主宰者)など。私も出ます。
  7. 4月3日(木)7:30p.m.新宿のロフトプラスワン。映画「靖国」の公開記念トーク。私も出ます。
  8. 4月7日(月)阿佐ヶ谷ロフト。藤井誠二、竹富健治さん、そして私。
  9. 4月9日(水)岩波ブックレット『使える9条』(800円)発売。私も書いてます。
  10. あの衝撃の舞台、「天皇ごっこ」が再び帰ってきます。何と今度は阿佐ヶ谷ロフトで。4月12日(土)、13日(日)の2日間です。終わって高木尋士さんのトークがあります。私も出ます。詳しくは又、お知らせします。
  11. 森達也さんの『死刑』(朝日出版社)は力作です。3年もかけて書いた本です。いずれ、詳しく紹介します。又、森さんが最近出した『視点をずらす思考術』(講談社現代新書)もいい本ですね。森さんは次から次といい本を出してますね。私も書かなくっちゃ。怠けていないで。